良性発作性頭位めまいの2症例

 

良性発作性頭位めまい症のクライアント様より、判りやすいめまい画像の掲載承諾をいただきましたので、今回は直近の症例2つをご報告いたします。

このブログでもめまい症例はたびたび取り上げていますが、簡単におさらいしておきます。めまいはグルグルめまい(回転性めまい)と、フワフワめまい(浮動性めまい)、フワッとする立ちくらみ感に大別できます。

回転性めまいは、眼球が異常に反復運動を起こすことによって引き起こされます。鼓膜の奥には、音を感知する蝸牛という器官のほか、バランスを感知する半規管(水平半規管、後半器官、前半器)と、耳石器(卵形嚢、球形嚢)があります。このバランスを察知している神経は、眼球と連動しているので、ここの障害が目の異常な動きを引き起こします。

回転性めまいの原因は耳石がはがれて、本来あってはいけない場所に入り込んでしまう、良性発作性頭位めまい症が圧倒的に多くなります。

 

良性発作性頭位めまい

 

 

1、外側(水平)半規管~後方半規管の眼振がでる回転性めまいの症例

60代で初発の良性発作性頭位めまい(BPPV)のクライアント様です。

 

1-1、経緯

10日前に車の運転で、バックで振り返ったとたん回転性めまいが発生。そこから1週間後に数回、日常生活で回転性めまいが出た。当院にお越しになるまでの間に総合病院を2院受診し、一通りの検査の結果、BPPVの診断が下されたそうです。

当院の初診時は、フワフワ・フラフラする感じが常時あり、気持ち悪さもあるとのこと。

 

1-2、検査

当院でも確認のため、一通りの検査を行います。後半器官のテストDix-Hallpikeをやっても症状でません。仰向けでの水平半規管のテストも陰性。小脳系、眼球運動問題なし。その他、脳神経系問題なし。体の感覚、運動神経問題なし。起立試験問題なし。首を反らす動き問題なし。その他の首の動きも問題なし。

1-3、眼振の方向

座った状態で首を振り向いてもめまいは起こらず、さらに回転椅子でまわしてもめまいは起こりません。ですが、今までの問診から振り向きざまにめまいが起こっているようなので、一番の可能性は水平半規管の異常です。

そこで首を左から右へ急速回旋させると、めまいが再現されました。この時に見られた眼振は回旋方向の眼振が見られます。眼振は眼球が律動的に反復する動きで、例えば右の水平半規管異常では、眼球が右へ急速に反復して動いているように観察できます。この時、右への眼球の動きが異常動作のように思われますが、実はこれは正常な補正動作で、眼球が左へズレようとするのを元に戻そうとしている動きなのです。ただ、その補正しようとする急速運動の方が目立つので、そちら向きの眼振とよばれます。

 

 

この画像は2回目来院時。初回より眼振の範囲は小さくなっていて、わかりずらいかも知れません。5秒~20秒くらいまでが分かりやすく、右目の白目にある血管の動きに注目してもらうと良いです。クライアント様から見て時計回り(観察者から見て半時計周り)の動きが観察されます。眼球の横の動きも見られますが、注視しているので、焦点合わせで動いているのか、眼振で動いているのか区別がつきません。

本来、振り向いたときに出る回転性めまいは、振り向いた側の水平(外側)半規管の問題です。その場合、眼振の動きは水平方向(振り向いた側)になります(図の上段)。回旋方向の眼振(図の下段)は、後半規管の問題の時にでます(本来は若干の上下方向の動きも混ざる)。前半器官で問題が出ることは稀です。

眼振図2

眼振図(c)フリーメディカルイラスト図鑑を改変

 

今回は思いっきりお辞儀から上体を起こす後半器官を刺激するような動作、首の後へのそらし、Dix-Hallpikeなど後半器官のテストは全て陰性であり、どうも辻褄があいません。

また、典型的なBPPVでは、めまいが起こる方向から頭を真反対の方向へ動かすと、眼振の方向が逆転する現象が観察されるはずですが、それも起こりません。

発症から10日を経過し、症状が軽減しているため逆転現象などは見られないのかと推測し、一番顕著な水平方向への頭位変換に伴うめまいをターゲットに施術と、運動指導を行い、初回は終りました。

 

1-4、経過

日に日に発症頻度と程度は減っていくようですが、3回目(初診より3週目)でまだ残るというので、クプラ結石に対する処置をしてみました。水平半規管性のBPPVの中でもよくある耳石結石型のBPPVより、クプラという半規管内でリンパの流れを察知する毛の部分に耳石がくっついてしまうクプラ結石型BPPVの方が治りが悪いので、その可能性があると思ったためです。ただし、クプラ型結石症の場合、通常の水平半規管型の眼振と逆の眼振がでるものです。今回、それが見られないので、可能性は低そうで、実際、その処置をしてみても何も変わりませんでした。

もう一つ、重要な懸念があり、回転椅子で急速回転させても眼振は起こらず、頭部のみの急速回旋させた時だけ眼振の再現がみれたので、ひょっとすると椎骨動脈レベルの問題が考えられた事です。要は、首を動かしたときだけ症状が出るなら、首の問題だろと推測されます。具体的には、椎骨動脈の解離や虚血性疾患、動脈奇形や、血管が通る穴(横突孔)の変形などが考えられます。そこで、その検査(MRA)をお願いしました。

クライアント様のご協力の下、MRAの結果も良好、椎骨動脈の走行も問題ないということが判明しましたので、より積極的に矯正手技を推し進めていく事ができるようになり、首への矯正(スラスト)を加える事ができました。こらは頭部への血流・リンパの改善を目的に行ったものです。BPPVの治療薬として、内耳の血流改善薬が処方されることがありますが、これは内耳の血流がよくなれば、内耳や耳石への代謝もよくなり、丈夫になるだろうという思わくの下、処方されます。これと同じような狙いであるといえます。

また、3回目くらいから日常で、頭の前後曲げたり、起こしたりするときにめまい感をするようになった、とのお話がありました。これは、まさに後半器官で引き起こされるBPPVで、回旋する眼振の向きと一致しています。どうも推測するに、浮遊耳石が水平半規管と、後半器官の両方に入っていたのではと思われます。この場合、2つの混合なので、めまい感も不規則になります。この時点では後半器官性のめまいが出てきているので、両方に効くブランドダロフ法という運動療法をやってもらうことにしました。

また、後半器官に対する前庭動眼反射を整えるセルフ・エクササイズをやってもらいました。この運動は、クライアント様にも好評のようで、これが効いたみたいでした。4~5回目のご来院で伺った話では、日常ではほぼめまい感が消失したとのことで、そこで略治にしようかと思いましたが、その後1週間くらいして仕事が忙しかった翌日、フワフワ感がでたとご連絡いただきましたが、一時的なもので、その後は再発していないようです。耳石の状態がまだ完全でないので、一過性に起こったようでした。

その後は体調良好ということで、略治(終了)となりました。

 

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2、後半器官の耳石結石症による良性発作性頭位めまいの症例

 

2-1、経緯

40代の男性。一年半前にBPPVに始めてになり、回転性めまいを経験した。その時は耳鼻咽喉科で受診し、改善。一年以上経過し、今回のめまい発症より4ヶ月前に、BPPVが再発。大学病院でMRI、CT、聴覚検査など行い、全て問題なく、投薬治療にて終了。

最近になり、以前よりあった腰痛が悪化して、しばらく寝ていたら、起き上がり時に回転性めまいが再発したとのことです。当院へは、めまいの運動療法である「エプリー法」が知りたくて探してきたそうです。

 

2-2、方針

一般的に行われるテスト、Dix-Hallpikeをやってみましたがめまいは誘発されませんでした。何回もBPPVを再発している人は、何となく「こうすれば治まる」というのが分かってきているので、自分であれこれやっていて、初見で症状が出てない人も結構います。

耳石結石症は、要は問題をおこしてる浮遊耳石が、良い位置に収まっていれば症状はでないので、頭をいろいろ動かしていると症状が治まる事があります。このクライアント様もまさにそのような状態でした。

症状の再現がないので、本当にBPPVかどうかその時点では判断が付きません。ご本人は、偏頭痛もちで頭も痛いということなので、ひょっとしたら偏頭痛からくる「めまい」の可能性もありました。通常、BPPVには頭痛は伴いません。あっても聴覚障害くらい。

偏頭痛の場合、緊張性頭痛との併発がよくあります。偏頭痛の痛みが筋肉の緊張を呼び、痛みを増強・延長させているのです。関連が強いので、まず、頭頸部の緊張をとる筋肉を緩める作業から始めることにしました。

 

2-3、施術

要はマッサージをしたわけですが、これが失敗。仰向けで頭頸部を緩めた後、起こしてみると「めまいがします」との訴え。そこでDix-Hallpikeをしてみると、見事に後半器官の回転性めまいがでています。

しかし、逆に言うとこれでBPPVであることが決定。やべぇ、やべぇ、と言いつつエプリー法を2回くらい繰り返すと治まりました(汗)

これはどういう事かというと、仰向けにしてたので、どっか行っていた浮遊耳石がフワフワと再び後半器官に戻ってきた、ということです。浮遊耳石に対する運動療法は、この余計なところにある耳石を元の耳石器に戻す作用があります。

BPPVで一番多いとされるのは、後半器官性のものです。通常、人間は何時間も仰向けで寝ることがおおいので、剥がれた耳石が重力に引っ張られ後半器官に溜まりやすいためとされています。後半器官は丁度、仰向けだと3つの半規管の中では一番、下に来るからです。

 

 

3、まとめ

今回は良性発作性頭位めまい(BPPV)における、当院での施術の実際をご紹介いたしました。BPPVは通常の生活を送っているだけでも、脳で代償作用・補正作用が働き回復していきますが、中には中々治らず、悩まれている方が少なからずいます。そのような場合は、カイロプラクティックのような施術院も改善ののための一手段とし考慮されると良いと思います。

では今回はこの辺で。

 

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