妊娠中の骨盤ベルトの効果はあるのか?

【今回の記事は以前、他のブログ掲載していたものを転載したものです(2017年9月初出)。骨盤伝説シリーズの第7回目。】

今日はダフィーカイロです。昨日のサッカー日本代表、やりましたね!勝って無事、W.C出場を決めました!ハリル采配も見事に的中。良い試合でした。

さて興奮も冷めやらぬ中ですが、以前からよく産前・産後に関する質問で出てくるものの一つに骨盤ベルトは効果があるのか?というものがあります。

メーカーサイドが提示してくるデータなどは多分に「売るため」の目的が含まれているため、そのまま鵜呑みにすることはできません。骨盤ベルトをするとあれも良くなる、これも良くなる、みたいな感じで何か凄いアイテムのように感じてしまいます(とくに○○ちゃんベルトなど)。

そこでそのような商業的目的を除外した客観的データをpubmedで探してみました。なるべく近年発表された物をかいつまんでお知らせします。ただし、これば全てではありません。今回は、産前・産後に対しての骨盤ベルトの効果に限定したものをあげています。

 

 

 

1、海外の産前・産後の骨盤ベルト事情

以前は海外では妊娠・出産に関してベルトで固定するという概念は一般的でなかったようですが、近年では普及しているようです。論文に出てくる骨盤ベルトもそれらを指しています。

骨盤ベルトと腰部コルセットをゴチャマゼに考えている人がいますので、こちらで簡単に説明。腰部コルセットはこんな感じ。

骨盤上部から腰部にかけて覆います。主に腹部を締めて腹圧を上げるのが目的です。それにより腰骨の支える力を補助します。

骨盤ベルトは仙腸関節か、それよりやや下に装着し、骨盤自体の固定力を強化する目的で装着します。論文では「pelvic belt」や「maternity support belt」とよばれています。

 

前述のように、昔は海外では妊娠中にサポートベルトを巻く風習はなく、ベルトを探しても中々見つからなかったという話を聞きました。ですが現在の一般的な海外状況を調べてみると、海外在住の人のブログで骨盤ベルトについて報告してくれている物がいくつかあるのを見つけました。下にそのリンクを載せておきます。ご参考までに。

ドイツ
アメリカ
イタリア
フランス

 

2、産前・産後における骨盤ベルトの有効性

研究のほとんどは産後の尿漏れの予防・治療のためか、妊娠中の骨盤の痛みの軽減を対象としているものばかりでした。日本で妊娠中にベルトに興味がある女性は、骨盤の痛みや腰痛があるためという人が多いですが、産後はどちらかというと美容的な問題を持たれている人が多い気がします。したがって研究では皆さんが興味があるような産後の骨盤ベルトの装着によってお腹の引っ込みがどう促進されるのかとか、悪露に対してどうなのか、不正出血に対してどうなのかというのは今のところ見つけられませんでした。

今回は主に妊娠中の骨盤周辺の痛みに対する有効性の研究のご紹介です。

 

3、妊娠中の腰痛を軽減するためのマタニティ・サポート・ベルトの効果のレビュー

Effectiveness of maternity support belts in reducing low back pain during pregnancy: a review.

著者;Ho SS, Yu WW, Lao TT, Chow DH, Chung JW, Li Y.

J Clin Nurs. 2009 Jun;18(11):1523-32. doi: 10.1111/j.1365-2702.2008.02749.x.

【概要】

妊娠中の腰痛に対するマタニティ・サポートベルトの種類、流行の使い方、生体力学的な効果、および副作用について、現在までに発表された文献を見直し、将来の研究方向を特定することを目指し系統的レビューを行った。

結果として、現在の研究では妊婦の腰痛の予防や治療に関して、大手メーカーの物を除いては、市販のマタニティ用の製品によるサポートでは限定的な効果しか示されていない。しかしいくつかの研究ではマタニティ・サポートベルトの安定化作用の効能は立証されている。副作用としては痛みの増加、胎児の心拍数の変化、皮膚の刺激および不快感が報告されていた。

 

2009年に発表された香港中華大学の報告です。ここでは結語として、ベルトが腰痛軽減に効果があるというのは断定できないと述べています。

骨盤ベルトの効能を推奨・支持する人にとっては、あまりパッとしない内容で期待はずれですが、まあ、2009年とちょっと昔の報告ですからね。折角訳したので、一応掲載しておきました。

 

4、骨盤痛を伴う妊婦に対する腰仙部ベルトと自宅での骨盤安定化運動の効果の比較。ランダム化比較試験。

Comparison between the effect of lumbopelvic belt and home based pelvic stabilizing exercise on pregnant women with pelvic girdle pain; a randomized controlled trial.

著者;Kordi R, Abolhasani M, Rostami M, Hantoushzadeh S, Mansournia MA, Vasheghani-Farahani F.J Back Musculoskelet

Rehabil. 2013;26(2):133-9. doi: 10.3233/BMR-2012-00357.

【概要】

骨盤帯痛を持つ妊婦(105名)の痛みの強度、機能状態、日常の質(QOL)に関してどう変化するか、無作為に3つの集団に分け、効果の比較を行った。 一般的な情報のみをレクチャーされた対照群(35名)、一般的な情報のレクチャーに加えて局所的な骨盤安定化の運動を自宅で行ってもらう群(31名)、一般的情報の提供に加え硬くない腰仙部ベルトを装着してもらった群(31名)である。痛みの強度と機能状態はVASとODIを使い、QOLはアンケートを使って3週間後と6週間後で評価した。

結果はベルト群が運動群、情報のみ群に比べ痛みの軽減、機能状態ともに優れていた。

 

2013年発表のイラン・テヘラン医科学大学スポーツ医学研究センターの報告です。ここでは妊娠中の骨盤の痛みには骨盤ベルトが効くという事でした。

 

5、妊娠期間中の恥骨結合の痛みの治療としての2つの異なる骨盤サポート・ベルトの使用の順守度合い、快適性および有効性;無作為化の先行研究

Adherence, tolerance and effectiveness of two different pelvic support belts as a treatment for pregnancy-related symphyseal pain – a pilot randomized trial.

著者;Flack NA, Hay-Smith EJ, Stringer MD, Gray AR, Woodley SJ.

BMC Pregnancy Childbirth. 2015 Feb 15;15:36. doi: 10.1186/s12884-015-0468-5.

【概要】

ニュージーランドのダニーデンで集まった恥骨結合炎と診断された妊婦20名(平均年齢29.4)を弾力があるベルトか、硬いベルトの何れかを3週間装着してもらうようにランダムに割り振った(10人:10人)。ベルト装着の24時間前の痛みは弾性ベルトの有効性を示すのに充分な変化を見せた。弾性ベルト、剛性ベルトともに3週間後の機能性と痛みの軽減に有効性を見せたが、総じて弾性ベルトの方が装着感や痛みの軽減において評価が高かった。ベルトの装着時間は一日平均4.9時間だった。

 

サンプル数20名の先行研究なので、これだけで何か断定的なことが言える訳ではいですが、骨盤ベルトが妊婦の恥骨結合痛に対して痛みを軽減させたという結果があるということは分かります。

 

6、妊娠と骨盤帯痛;痛みにおける骨盤ベルトの分析

Pregnancy and pelvic girdle pain: analysis of pelvic belt on pain.

著者;Bertuit J, Van Lint CE, Rooze M, Feipel V.

J Clin Nurs. 2017 May 25. doi: 10.1111/jocn.13888. [Epub ahead of print]

【概要】

骨盤痛がある46名の妊婦で2種類のベルトによる無作為比較対照試験を実施した。骨盤痛は妊娠14週~21週目から始り、疼痛強度はVASの60mm(±20mm)だった。骨盤ベルトを使用すると疼痛強度は20mm軽減し、日常の活動を安易にした。ただし、これらの結果は妊婦が定期的な短時間のベルト使用のみに得られたものである。

 

2017年発表のベルギー・ブリュッセル大学の研究です。内容的な今まで語られてきたのと同じことで、それを補足する結果となります。

 

7、骨盤ベルトは妊娠に関連した骨盤帯後部痛時の股関節内転筋の弱化を改善させるか?症例対照研究

Does a pelvic belt reduce hip adduction weakness in pregnancy-related posterior pelvic girdle pain? A case-control study.

著者;Mens JM.

Eur J Phys Rehabil Med. 2017 Mar 1. doi: 10.23736/S1973-9087.17.04442-2. [Epub ahead of print]

【概要】

骨盤帯後部に長期慢性痛を有する女性49名と同年代のグループで骨盤痛がない女性37名で測定。両膝の間に手動式の圧力計を挟み内転筋の筋力を測定。骨盤ベルトを装着時と非装着とで計測。骨盤痛がある方はベルトを装着すると内転筋の筋力が25.9%向上した。グループ間の差は有意にあった。骨盤ベルトは妊娠時の骨盤帯後部痛の内転筋力にポジティブな影響を及ぼす。

 

2017年発表のオランダ・ロッテルダムのエラスムス大学医療センター所属の人の報告です。今回は痛みの変化については直接どうのこうのというのは言っていません。骨盤ベルトを締めると内転筋の筋力アップができるというお話です。

しかし、この内転筋というのがポイントで、内転筋は腹部の筋や骨盤底筋と関連が強く、内転筋の収縮は腹筋や骨盤底筋の同時収縮を促すことが分かっています。内転筋が強くなれば腹部の筋も強くなり体幹の安定に寄与し、腰痛・骨盤痛が軽減する可能性が高まります。また骨盤底筋にも同じことが言えます。したがって、内転筋に着目したのには意味があるのです。

 

8,まとめ

骨盤をサポートするベルトには妊娠時おける痛みの軽減ということには一定の効果があるということが色々な論文より言及されています。これまでご紹介してきたように色々な国や地域で証明されています。つまりコレは特にある特定のベルトにこだわる必要な無いのではないかということです。最近では色々なメーカーからでていますのでご自身で気に入ったものを使っていただければ良いと思います。ただ全体的には硬いものより弾力があるものの方が推奨されているようです。

また、以前は腹帯は日本独自のものとされてきましたが、最近では海外のママさんのSNSで日本の腹帯に興味を持たれているという話を聞いたことがあります。その様なことも参考にしてみてはどうでしょうか?

あと、産後の骨盤ベルトに関する研究論文は今回みつけられませんでした。尿漏れ関連であるかも知れないので、また探してみます。では今回はこの辺で。

 

この記事が何か皆様のお役に立つことがあったならば、facebookで「いいね!」を押したり、twitterでつぶやいていただけると、本人のやる気につながりますのでお願いします。。。

 

Follow me!

お問い合わせはこちらです

    お名前 (必須)

    メールアドレス (必須)

    題名

    メッセージ本文

    メッセージの内容はこれでよろしいでしょうか?

    OKでしたらチェックして送信ボタンをクリックして下さい。