帝王切開と腹直筋離開と産後のお腹のたるみの関係
産後の骨盤ケアに関し、帝王切開で出産されたクライアント様から頂く質問で多いものが2つあります。
①帝王切開の出産ですが、それでも骨盤底筋が傷つくの?
②帝王切開も腹直筋離開が起こるの?
今回は、これについてお答えしていこうと思います。
帝王切開と骨盤底筋・産後のお腹のたるみについて
帝王切開をすると産道を胎児が通らないので、骨盤底筋が無理に広げられることもなく、特に傷めることもないのではないかと一般的には考えられています。
分娩時に骨盤底筋は3倍も長さが伸長され、大なり小なり筋挫傷を起こすことは知られています。この負担が帝王切開ではないためです。
実際、この様な研究があります。
【産後の骨盤底の障害と分娩様式の関連】
【Association of Delivery Mode With Pelvic Floor Disorders After Childbirth】
出典;JAMA2018 Dec 18;320(23):2438-2447. doi: 10.1001/jama.2018.18315. 著者; 《概略》 産後5~10年経った1528人の女性を9年間追跡調査した。帝王切開による出産は、腹圧性失禁、過活動膀胱、骨盤臓器脱が自然分娩に比べ発生リスクが低かった。鉗子使用の経腟分娩術は、肛門失禁、骨盤臓器脱の発生リスクが高まった。 |
帝王切開出産では、分娩時の骨盤底筋への過度な負担はかかりませんが、それとは別に妊娠中はお腹がどんどん大きくなっていくことに伴っての腹直筋間の白線の引き伸ばしは起こります。このため腹直筋離開になる可能性はあります。
約10ケ月かかって大きくなった胴回りは、約25~40㎝ほどサイズが増えています。分娩後、1ヶ月半ほどかけて子宮は元のサイズに戻ります。しかし腹部の筋肉や組織は修復までにもっと時間がかかってしまいます。そのため産後は腹部のたるみが目立ちます。
骨盤底筋の損傷は帝王切開出産の方が自然分娩より少ないですが、妊娠中に上からの負荷がかかっているので、妊娠前にくらべてはいくらかは損傷しているかもしれません。そのため、一般的には帝王切開出産の人も骨盤底筋のエクササイズは推奨されています。
産後のお腹のたるみについては、妊娠中に引き起こされたものなので帝王切開と自然分娩とで差がないような印象ですが、本当のところはどうなのでしょうか?次で議論します。
帝王切開と腹直筋離開について
昔は帝王切開と言えば縦一文字に切り傷が入っていました。現在では横方向に切ることが多いようです。これは美容的な観点から、水着や下着になった時、傷跡が隠れて目立たないため、妊婦さんに好まれるという背景があるようです。
ただし、子宮を切開する場合は、子宮の幅が狭くなっていて、術後が治りやすいと理由から子宮の下部を横に切るのが一般的の様です(下図の緑の線で示したところ)。これは腹部を縦に切開しようが、横に切開しようが同じであります。
帝王切開の方法
ここからは、私は産科医でも外科医でも何でもないので教科書的な説明しかできませんが、一応、帝王切開の方法を説明させていただきます。
腹部を縦で切った場合は、皮膚を切ったのと同様にそのまま腹直筋の真ん中の白線を切開し、広げれば子宮に達します。一方、皮膚を横に切った場合は、その下の脂肪層と筋膜は横に連続して切りますが、その後はそれを剥がして腹直筋を露出させ、そこから腹直筋の白線を縦に切り開いて子宮に至ります。
まれに腹直筋自体も横に切り離してしまう術式もあるようですが、あまり一般的ではないようです。理由は術後痛みが増し、治りずらいというのと、筋肉の機能低下が引き起こされるためとされています。
腹直筋離開は腹部が引き伸ばされて起こるので、妊娠中に作られます。帝王切開では腹直筋の白線を切り離すので、余計に白線を弱くするのではないかと想像されます。
実際はどうなのか論文を調べてみたら、いくつかありましたのでご紹介します。
【帝王切開と経腟分娩が腹筋と筋膜に及ぼす影響】
【Effects of Cesarean Section and Vaginal Delivery on Abdominal Muscles and Fasciae】
出典;Medicina (Kaunas). 2020 Jun; 56(6): 260.Published online 2020 May27. doi: 10.3390/medicina56060260 著者;Chenglei Fan,Diego Guidolin,Serena Ragazzo,Caterina Fede,Carmelo Pirri, Nathaly Gaudreault, Andrea Porzionato, Veronica Macchi, Raffaele De Caro, and Carla Stecco 《概略》 出産未経験者(13人)と帝王切開出産者(初産13人)と経腟分娩出産者(10人)による腹筋と筋膜の比較。エコーにより腹直筋、内/外腹斜筋、腹横筋、結合組織などの厚さや距離を計測した。未経験者に比べ、帝王切開者は腹直筋間の幅が広くなり(p = 0.004)、左の腹直筋の厚さが薄くなり(p = 0.020)、右は厚くなった(p = 0.035)。また左右の腹部の筋膜が全体的に厚くなり(左:p = 0.001、右:p = 0.001)、内腹斜筋が左右非対称(p = 0.009)となった。経腟分娩者は両側の腹直筋が薄くなった(左:p = 0.008、右:p = 0.043)。また、左腹部全体の筋の厚さが薄くなっていた(p = 0.024)。 |
イタリアのパドヴァ大学人体解剖学研究所が中心となった2020年発表の論文です。これによると、白線の幅は、未経験者12.69±6.28㎜、経腟分娩20.75±7.41㎜、帝王切開25.55±6.48㎜となり、白線の厚さは、未経験者2.34±0.74㎜、経腟分娩2.42±0.93㎜、帝王切開1.82±0.44㎜となっています。
妊娠すると白線が引き伸ばされるので、帝王切開するしないに関わらず広くなります。ただ、帝王切開の方がより広くなるようです。白線の厚さが経腟分娩者は未出産者とほぼ変わらないようですが、帝王切開では有意に薄くなっています。切るとケロイドで厚くなるイメージですが、ケロイドは表皮の下の真皮で出来るようなので、皮膚に関係していて筋膜は厚くはならないようです。
【腹直筋離開は骨盤底の機能を弱めるのか?横断的研究】
【Does diastasis recti abdominis weaken pelvic floor function? A cross-sectional study】 出典;Int Urogynecol J 2020年2月; 31(2):277-283 doi: 10.1007 / s00192-019-04005-9 著者; 《概略》 産後6~8週の女性(腹直筋離開がある人、ない人)310人で、骨盤底筋力、尿失禁、骨盤臓器脱の有病率を比較した。腹直筋離開がある人は有意に産前、妊娠中、産後ともに低いBMIを示した。また、腹直筋離開がない人に比べ、出産までの期間が長く、胎児も重かった(p <0.05)。腹直筋離開の発生率は、帝王切開の人の方が、経膣分娩の人よりも有意に高かった(p = 0.045)。腹直筋離開グループの骨盤底筋力は弱かったが、尿失禁、骨盤臓器脱の有病率は腹直筋離開がないグループに比べ統計的に有意ではなかった。帝王切開グループの骨盤底筋力は経腟分娩グループの骨盤底筋力よりも強かった。尿失禁と脱出の発生率は、帝王切開グループよりも経腟分娩グループの方が高かった。 |
2020年発表の北京大学の論文です。これも今まで述べてきたのと同じように、帝王切開の方が骨盤底筋の機能は衰えないという結果が出てます。そして、帝王切開の方が腹直筋離開の発生率が高いと言いうのも同様ですね。
あと、目を引く点として、痩せてる人は腹直筋離開をおこしやすいという指摘です。痩せてる人の方が腹部にゆとりがないので、お腹が大きくなるにつれて白線が引っ張られやすいということなんでしょうかね。
以前書いた記事「妊婦の体力維持のためのトレーニングについて」の中でも、体幹の筋膜が固くなっていると腹圧が高くなりやすいので緩めるようにする、云々をお伝えしておりましたが、そのことに繋がる内容ですね。お腹周りのストレッチや動かす運動をしておくことが大事だということです。産前から痩せている人は、より一層励むと良いでしょう。
結論
帝王切開の人は、経腟分娩(自然分娩)の人に比べ骨盤底筋の機能低下のリスクは低いですが、白線が弱くなるため腹直筋離開発生のリスクが高くなります。ただ、骨盤底筋の機能低下が起こりづらいので、産後の尿失禁や骨盤内臓脱は起こりづらいようです。
因みに、帝王切開なしで腹直筋離開があり、尿失禁などの骨盤底機能不全がある人、骨盤底機能不全がない人、帝王切開ありで尿失禁がある人、ない人、などパターンがいくつかありますが、全て骨盤底筋や腹横筋のトレーニングは改善に使います。
それは上図で示してあるように横隔膜・腹横筋・骨盤底筋は機能的な繋がりがあり、どこかを活用すれば他も働くからです。ですが、それぞれの重点の置き方が、それぞれの弱っている場所によって変わってきます。全部一律的に鍛えてもいいのですが、普通は時間も労力も限られているので効率的に鍛えるために重点を置く場所を決める必要があるのです。
余談です
もし、以前の出産で腹直筋離開があり、今回の出産で帝王切開になる予定である人は、ひょっとしたら手術中についでに白線を手繰り寄せて少し短めに縫い合わせてもらうのも手かもしれません。当院のクライアント様で、以前出産時にそのようにしてもらったという方がいらっしゃいました。
ですが、どの程度短くするかは難しいようで、あまり縮め過ぎると体が反らしづらくなり、他の悪い影響が出るようです。逆に縮めなさすぎると効果の程度が分からなくなります。例えば、白線が前以上に伸びるのを防げたのか、それともあまり以前と変わり映えしていないのか…など。
まとめ
今回は帝王切開と腹直筋離開、腹部のたるみについて論文紹介と簡単な考察をしてみました。
この記事が、何かの参考になれば幸いです。
では、今回はこの辺で。
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【腹直筋離開及び産後ケアのための施術を受けてみようと考えてるい方へ】 腹直筋離開や産後のケアは、肩こり・腰痛のように1回受けたからといってすぐに改善するものではありません。連続して複数回施術を受ける必要があります。 また、当院では初回時から全力で時間をかけ検査・施術を行います。 従って、「お試し」施術は行っていません。 このような考えから腹直筋離開及び産後ケアの施術は、初回時のみ3回分セット販売のみに限らせていただいています。 通常 1回施術料5100円×3回=15300円、別途に初見料1500円、合わせて16800円 ⇒特別価格として 15300円 でのご提供となります。 ・有効期限3ヶ月(最低でも1ヶ月半に1回はご利用いただくことになります。) ・払い戻しはいたしません。 ・施術4回目以降は1回ごとの通常料金で受けることができます。
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