マスクをすると酸欠になるという噂について

前回の「感染対策におけるマスクの効果」についての記事の第2弾になります。前回の記事内で収まりきらなかったので、別記事にしました。

「マスクをすると酸欠になる」という言説を唱える人も多くいます。マスクが呼吸困難を引き起こし、酸素摂取量を低下させ、二酸化炭素がマスク内に溜まるためと説明されています。このことについての研究も多数ありますので、これらをご紹介します。

 

フェイスマスクが酸欠を引き起こすかを調べた研究

すべてpubmedの検索からのものになります。

 

【布製または使い捨ての外科用フェイスマスクの着用は、健康な人の激しい運動パフォーマンスには影響を与えない】

Wearing of Cloth or Disposable Surgical Face Masks has no Effect on Vigorous Exercise Performance in Healthy Individuals

出典;Int J Environ Res Public Health. 2020 Nov; 17(21): 8110.Published online 2020 Nov 3.

《要点》

・サイクル・エルゴメーターで疲労するまでの運動全体を通じて、14人の参加者(男性7人、女性7人、28.2±8.7歳)のサージカルマスク、布マスク、マスク着用なしの影響を、動脈酸素飽和度(パルスオキシメーター) と外側広筋での組織酸素化指数 (近赤外分光法) を使い評価した。

・疲労までの時間(平均±SD):マスクなし622±141秒、サージカル マスク657±158 秒、布マスク 637±153秒(p=0.20)

・ピークパワー:マスクなし234±56W、サージカルマスク241±57W、布マスク241±51W(p=0.49)。

・運動テスト中のどの時点においても、動脈血酸素飽和度、組織酸素化指数、知覚された運動量の評価、心拍数についてマスクの着用と非着用の間に明らかな差はなかった。

2020年発表のカナダ・サスカチュワン大学の研究チームの論文です。

結果は「若い健康な参加者において、激しい運動中にフェイスマスクを着用しても、血液や筋肉の酸素化、運動パフォーマンスに悪影響は認められない」でした。

 

【マスクは子供のトレッドミル運動テスト中に異常なガス交換を引き起こさない】

Facemasks do not lead to abnormal gas exchange during treadmill exercise testing in children

出典;ERJ Open Res. 2022 Jan; 8(1): 00613-2021.

《要点》

・喘鳴、咳、運動誘発性症状などの呼吸器疾患で、小児呼吸器外来クリニックに紹介された小児を対象とした研究である。参加者は25名で、76% (19 人) が女子。年齢中央値は 14 歳 (9 ~ 16 歳の範囲) 。

・トレッドミルで、予測最大心拍数(220−年齢)の80〜90%の心拍数での運動を、12歳未満の場合は6分、12歳以上の場合8分間行った。

・1 秒間の努力呼気量 (FEV1) を運動前と運動後 2、5、10、15 分に測定。酸素飽和度 (spo2)は、運動の前後に指先酸素濃度計を使用。ガス交換を評価するために、運動直後に毛細管血液ガス分析を実施。

・運動テスト中に達成された心拍数の中央値は 185 拍/分 (範囲 175 ~ 200 拍/分) 。

・15 人の小児 (60%) では FEV 1が 10% 以上低下しており、運動誘発性の気道閉塞が示唆された。

・運動前後のspo2に差は見られなかった(p=0.096)。毛細管血液ガス分析により、ほとんどの参加者(n=19、76%)で乳酸アシドーシスが明らかになったが、二酸化炭素貯留はどの小児にも観察されなかった。

スイス・ベルン大学のチームによる2022年発表の研究です。

結論は「最大下トレッドミル運動テストを受けている運動誘発性喘息の小児の酸素飽和度および二酸化炭素貯留に対するサージカルフェイスマスクの影響を評価したこの研究では、異常なガス交換の証拠は明らかにされなかった」という事でした。

 

【健康な人および慢性閉塞性肺疾患患者のガス交換に対するフェイスマスクの影響】

Effect of Face Masks on Gas Exchange in Healthy Persons and Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease

出典;Ann Am Thorac Soc. 2021 Mar; 18(3): 541–544.

《要点》

・肺機能障害の有無にかかわらず、サージカルマスクの使用によりガス交換異常が発生するかどうかを評価した。

・肺疾患のない在宅スタッフ医師15名(31.1±1.9歳、60%が男性)を比較対照として、重度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)を患う退役軍人15名(71.6±8.7歳、1秒努力呼気量[FEV1] 44.0±22.2%、100%男性)を調査。

・施設では、長期的な酸素の必要性を評価するために、患者たちは散歩の前後に動脈血分析を伴う6分間の歩行テストが行​​われる。その際、サージカルマスクを着用した。

・COPD患者は、サージカルマスクを使用した6分間の歩行テスト後のガス交換測定、特にco2貯留において大きな生理学的変化を示さなかった。

アメリア・フロリダ州マイアミの研究チームによる2021年発表の研究です。

結果は「重度の肺障害のある被験者であっても、ガス交換がサージカルマスクの使用によって大きな影響を受けないことを示した。これらは、20人の健康なボランティアが中程度の作業速度でサージカルマスクを1時間使用した場合の過去の観察と一致している。サージカルマスクの使用時に感じる不快感は、神経学的反応(マスクで覆われた顔の非常に感熱性の高い領域、または吸気温度の上昇による求心性衝動の増加)または不安、閉所恐怖症などの関連する心理的現象によるものであると考えられる。」とのことでした。

 

【有酸素運動中のフェイスマスク:新型コロナウイルス感染症パンデミック中の心臓リハビリテーションプログラムへの影響】

Facemasks during aerobic exercise: Implications for cardiac rehabilitation programs during the Covid-19 pandemic

出典;Rev Port Cardiol (Engl Ed). 2021 Dec; 40(12): 957–964.

《要点》

・12 人の健康な医療専門家(25~45歳[平均29.8]、男性8人。7人の被験者 (58.3%) は中等度から高度に身体活動的であった。2人は以前に呼吸器疾患を患っており、1人は喘息を現在患っており、1人はアレルギー性鼻炎を患っていた)をサンプルに計測。

・トレッドミル有酸素トレーニング中の心肺機能の生理的反応と知覚される運動量および呼吸困難の割合に対する、サージカルマスク(SM)、人工呼吸器 (R))の使用の影響を、マスク(FM)を使用しない場合と比較してた。

・結果は(1) 着用したマスクの種類に関係なく、マスクを使用すると、症状が限定された最大の 運動テストの期間が短くなり、呼吸困難と知覚される労作のレベルが高くなる。(2) SpO2 の大幅な低下は、Rを使用した場合にのみテスト の終了時に存在した。(3) 試験条件間で変性反応や血圧に差はない。(4) SMまたは Rの着用の間で、テストへの反応に有意差はなかった。

ポルトガル・サンジョアン大学理学療法科の2021年発表の研究です。

本文内でマスク着用は「マスク内に溜まった低酸素、高二酸化炭素の呼気を再呼吸し、肺胞ガスの拡散と血中酸素の取り込みが妨げられる可能性がある。また、マスクによる空気の流れに対する抵抗の増加は、呼吸努力の増加と早期の呼吸筋疲労につながる可能性がある」とされています。

調査の結果では、「マスク の着用は、種類に関係なく、運動能力の低下、特に最大強度での呼吸困難と努力知覚のレベルの上昇に関連している可能性があることを発見した。高強度の有酸素運動中に マスクを着用すると、変性反応や血圧反応が大きく変化するという証拠はない。一方、これらの状況で 人工呼吸器 を着用すると、健康な成人では動脈性低酸素血症が誘発される」とのことでした。

 

上記から言える事

マスクを着用していると酸欠になり、健康被害がでると唱えている人がSNS上でたまにいます。

実際調べてみると、マスクを着けている場合と、着けてない場合を比較してみても、ほぼ差がないという事がわかります。

血中酸素飽和度(spo2)は、血中のヘモグロビンと酸素の結合割合を示すもので、65%以上が正常です。これを下回るといわゆる酸欠です。パルスオキシメーターで簡単に測ることが出来、コロナ窩初期では感染時に市から貸し出されたりしたので、目にしたことがある人も多いでしょう。

その他、心拍や各種諸々、測定をした結果、異常値は出ていません。

最後にご紹介した論文だけ、マスクをして運動するとキツクなるので、心臓リハビリする際は注意しようという内容でした。

今回挙げた論文の全てが、運動時にどう変化するかを見ています。運動時に異常値が出なければ、安静時や日常動作時にはもっと変化はでないであろうという事です。

ですが、日常でマスクをしていると、息苦しさを感じる場面があるのも確かにあります。

これは私の単なる経験・推測ですが、鼻の上がマスクで押しつぶされて鼻腔が狭まるのが大きな原因の様な気がします。

これは一般的なプリーツマスクで起きやすいですが、そのような場合、3D立体構造マスクと呼ばれているマスクがお勧めです。

これは、本体の口元部分が帯状になっていて、顎の部分と鼻の部分の上下をヒダで覆うような構造しているマスクです。口元の空間が広く取れて、鼻の圧迫も少なく、かなり楽な印象です。今では価格もかなり安くなっているので、まだの人は試してみては如何でしょうか?

 

まとめ

前回と今回の2回に渡り、マスクの有用性を解説していきました。

依然、コロナ窩は終焉を見せていません。

他業種ならいざ知らず、健康関連産業に携わる者が、今の状況を見てマスク着用を怠るということは、公衆衛生や病理学的な面で、認識不足、職務怠慢であると言わざる得ません。

当院では、健康弱者であるクライアント様もいらっしゃるので、最低限の公衆衛生には気を配っているつもりです。

その一環として、当院利用者さまには現在も消毒とマスク着用をお願いしており、承認出来ない方のお断りをしています。

この2回は、その様な思いから記事を作成させて頂きまし。

今回は、この辺で。

 

 

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