腰痛時のベルト・スクワット(基礎編)
photo credit: personaltrainertoronto Landmine Squat Video via photopin (license)
今日は、ダフィーカイロです。
以前の記事「バックスクワットの代替え法」内でベルト・スクワットに興味があればコメント下さい、って言ったら多少反響があったようなので、今回はベルト・スクワットの解説です。
といっても、ベルトスクワットの解説されたものが2021年8月時点で日本語のものがほとんど無いので、完全に個人の経験に基づく主観であり、皆さんにそれが当てはまるかどうかは分かりません。そこはご了承ください。
全体がかなり長文になってしまったため、「基礎編」「実践編」の2回に分けることにしました。興味のある方は続けてお読み頂けると幸いです。
あとお断りを入れておくと、今回の話は以前の記事を受け、バーベル・スクワットで腰を痛めた人がバーベル・スクワットに復帰するためのトレーニングとして、リハからの移行段階であるという場面を想定しています。その腰痛とは、主に反らすと痛いという腰痛です。このことを念頭に置いてお読みください。
ベルト・スクワットとは?
以前の記事でも述べたように、スクワットにおいて上半身で重りを支えると腰に負担がかかってしまいます。そこで骨盤から荷重を加えれば背中・腰に負担はかからないと考えられます。そのため骨盤にベルトを巻き、ベルトを介して負荷を加えます。
フリーウェイトで行うベルト・スクワットには、やり方が主に3種類あります。
①ヒップ・ベルト・スクワット
IronMindより
②ディッピングベルトによるウェイト・ローディングでのスクワット
③ディッピングベルトによるランドマインを用いたスクワット
この3つです。
通常ベルト・スクワットというと、ベルト・スクワット・マシーンで行うスクワットに類似したやり方を行うもの指すのが一般的です。つまりディッピング・ベルトを用いたものです。IRONMINDのヒップ・ベルトのようにベルトの前後からシャフトを吊るす形は特殊なので、これはヒップ・ベルト・スクワットとして分けて考えます。
それぞれにメリット・デメリットがあります。ですが、各々の解説に入る前に、まず全体的な説明をしていきます。
ベルト・スクワットのメリット
ここから先の説明は、ベルト・スクワットとはすべてフリーウェイトで行う場合を指し、マシーンで行う場合ではないのでご注意下さい。
1、パワーラックが無くてもスクワットができる。
ラックが無いところでバーベル・スクワットを行おうとすると、重量が重くなるほど担ぎ上げるのが大変になります。また、潰れた場合も大怪我につながります。
足場を高くするためボックス上でベルト・スクワットを行うと、バランスを崩した時に危険ですが、床で行う場合は潰れた時にそのまま床に降ろせば良いので比較的安全と言えるでしょう。
2、ある程度の肩や腕をケガしていてもできる。
上半身にウェイトを取り付けるための作業ができない程の怪我をしている時は、ベルト・スクワットと言えど出来ませんが、それ程の怪我でなければベルト・スクワットは出来ます。
肩を怪我した場合、ただ持つだけならある程度の重りは持てる、しかし肩を60~70°くらいから上には上げれない、という状態になることが往々にしてあります。そのような方はスクワットでバーベルを担ぐ時にとるバーを腕で支えるポジションが出来ません。ベルト・スクワットではウェイトの保持に腕が関与しないので負担になりません。
3、首や背中の負担が少ない。
首や背中を痛めていてもバーベルを担ぐことは困難になります。ベルト・スクワットでは上半身に直接的な負荷をかけないので、上半身の怪我を負っていても比較的安易に行うことが出来ます。
健常者がベルト・スクワットを行う場合は、通常のバーベル・スクワットの姿勢に準じて背中のアーチを作る方が、背部の筋を有効に働かせることが出来できます。そのため、運動フォームは同じようなものになるでしょう。しかし、首・背中・腰などを痛めている場合は、少し背を丸め気味にしてあげる方が痛めている部分のストレスが軽減されます。
通常のバーベル・スクワットで背中を丸めた姿勢は、腰の椎間板に過度な負担をかけるため、また背筋を有効に働かせることが出来ないため、避けるべきフォームとされています。ベルト・スクワットでは上半身からの圧力が腰の椎間板にかからないため、姿勢に関してそれほどシビアではありません。
健常者の場合でも、通常のバーベル・スクワットのトレーニング後に追加種目としてベルト・スクワットを行うことは、腰の負担が少ない分追い込みやすくなり、レッグプレスの代替種目として有効だと思われます。
ベルト・スクワットのデメリット
1、セット・アップが面倒。
バーベル・スクワットでは、ラックにバーベルを乗っけて、両サイドにウェイト・プレートをはめて、担いでラックアップし、2~3歩下がればそこからスクワットが始められる簡便さがあります。それに比べてベルト・スクワットでは、ベルトににカラビナ、バンド、チェーン等を使ってウェイトを括り付けるのですが、その作業が煩わしいです。
特にケトルベルやウェイト・プレートを直に鎖に括り付ける場合は、長さの調節を上手に行わないと、しゃがんだ時にすぐに重りが地面についてしまうので可動域が確保できません。なるべくそれを避けるためにベルト・スクワットでは足場を高くする必要が出てきます。その際、ウェイトを骨盤に括り付けたまま足場へ移動するのに腰に負担がかかります。腰痛時は避けたい作業であります。
2、ランドマイン以外はバランスが悪い
ランドマインはバーベル・シャフトの片側を固定具に装着し、そこをテコの支点として、もう片方にウェイトを付け運動をする器具です。主にファンクショナル・トレーニングの一環として用いられることが多いです。これをベルト・スクワットに利用します。
シャフトの固定の仕方によりますが、ランドマインのベルト・スクワットは軌道が比較的安定していて、ウェイトのぶらぶら揺れる不安定性が少ないので、ウェイトの揺れが腰に響く人には適しているかもしれません。
ランドマイン以外のケトルベルやウェイトプレートの装着、Ironmindのヒップ・ベルト・スクワットでは、重りが完全に空中に浮いている状態なので、バランス取りに注意が必要です。
3、背中が丸まりやすい
次回解説しますが、ベルトスクワットは重心が後ろに引かれやすいため、バランスをとるために上半身を前に持ってこようとして背中が丸まりやすくなります。
ベルト・スクワットのマシンでは、ストッパー兼体勢維持用のバーがあるので、それに掴まりながら上体を真っ直ぐ真上に立てやすくなっていますが、フリーウェイとだと上体を立てるためには膝を前に出さないとけいないので人によっては膝に負担がかかるかも知れません。
また、鼠径部の当たりがきついとその軽減のために骨盤を前に倒しやすくなり、そのため上体が被りすすくなります。
ベルトの当たりについて
ベルトスクワットでは、ベルトの圧迫により痛みが出やすい部分が2カ所あります。
それが「上前腸骨棘」と「鼠径部」です。
上前腸骨棘は、骨盤前面の骨の出っ張り(上図の上の青〇)で、ここにベルトの負荷が強くかかりやすいです。
もう一つは鼠径部で、本来ディッピングベルトは懸垂やディップスの時に使用するもので、その時下半身は空中に浮いていますが、股関節を深く曲げることはないので問題になりません。しかし、スクワットでは股関節を曲げてききますので、その際ベルトの負荷がここにかかり、大腿直筋健や縫工筋腱(上図の下の青〇)を圧迫し痛みを発します。
ベルトの素材が革の硬いものだと特に当たりがきつくなります。
解消法としては何かクッションになるものをベルトに巻き付けると良いでしょう。私は100均で購入したゴムシートを巻き付けてクッション代わりにしていますが、それだけでも大分当たりが軽減されます。
使用するベルトについて
ベルト・スクワットを行う際に最重要な点は、自分に合ったベルトを見つけるということです。私は3種類のベルトを保有して試しているので、その経験に基づいて述べていきます。ベルトスクワットでは一般的には骨盤の前で重りを支持するため、ディッピングベルトが用いられます。それ以外のベルトを使用する場合、ウェイトを取り付けられるよう自作する必要があります。その点を踏まえてそれぞれのベルトの使用感を説明します。
パワーベルト
パワーリフティングに用いられるベルト。この3種類の中で一番強固で腹圧が高められます。ヒップ・ベルトの代用として用いる場合、型崩れを起こし辛く骨盤と腰骨の間の牽引が上手くかかります。一方、ディッピング・ベルト代わりに使うと腰の前方への引っ張りが強く腰に悪影響が出る可能性があります。頑丈に作られている分、材質が硬く当たりがきつくなる傾向もあるので、ややベルトスクワットには不向きでは?
リフティングベルト
一般的なウェイト・トレーニングに最も用いられているベルトです。腰を支える部分幅広で、股関節の屈曲を妨げないようベルトの前側は細めに出来ています。ナイロン製の方が鼠径部の当たりが和らぐ気もしますが、重量が重くなるとやはりしんどいことには変わりは無いです。
ディッピン・グベルト
もともとは懸垂やディッピングを行う時に、自体重以上の負荷をかけるためのベルトです。ベルトというより腰周りに引っ掛ける帯状のもので、ベルト前面が閉じておらず、取り付けたウェイトの重みによって腰や鼠径部に引っかかってズレ落ちないようになっています。
ディッピング・ベルトはそれほど高負荷の重量を取り付けることを想定して作られておりません。大抵の場合、20~40㎏くらいの耐負荷量設定の製品が多いです。スクワットで使用する場合はもう少し重さに耐えられるようなベルトを探す必要が出てきます。
中華製の格安メーカーでは100㎏以上の耐荷重性を謳っているものがありますが、眉唾物です。ベルトの両端のD環を通す部分が重みに耐えかね裂けてくることが多いので、その部分の強度を基準に選んでみると良いでしょう。
ベルト・スクワット専用ベルト
ベルトスクワット用に開発されたベルトは日本ではまだ見当たりません。したがって購入しようとすると海外製品になります。海外で定番なのはこちらのspudというメーカー。
L、Mサイズ
Sサイズ
IRONMIND社のヒップ・ベルト( SUPER SQUATS Hip Belt )はこちら↓
どちらもそれなりの値段(約2~4万円)します。特にヒップ・ベルト・スクワットを行わなければ、通常のディッピング・ベルトを代用しても構わないと思いますが、一番の懸念材料はベルトの耐荷重機能です。
自作してみる
いきなり3万円ちかくのものを購入して仮に合わなかったりしたら損失も大きいので、まずは自作してみるのもお勧めです。ディッピング・ベルトがない場合、パワーベルトやリフティングベルトで代用します。
まずは市販のもの。単に今手持ちのトレーニングベルトにウェイトを取り付けるためのリングを付け足すアイテム。こちらは400㎏以上耐えられるみたいです。
安上がりにしたかったい場合は、ナイロンベルトで輪っかを作り、それをベルトやバーベルシャフトに括り付け、カラビナで連結させるだけでも十分事足ります。
私は主にディッピングベルトにカラビナを付け、ローディング・ピンやランドマインを連結して使用しています。ディッピング・ベルトの場合、付属でチェーンが付いているものがほとんどですが、チェーンでウェイトを取り付けると、床までの距離が少なくなる傾向になるので、なるべく距離を稼ぐべくカラビナを使用してます。
ヒップ・ベルト・スクワットについて
IRONMIND 社オリジナルのベルト・スクワット用のベルトで、他に比べ独特です。ベルト・スクワットでは通常、ディッピングベルトを用いるのでウェイトを吊り下げる部分はベルトの前側のみですが、IRONMINDのものは前と後ろの2カ所に吊り下げる部分があり、取り付けたバーベルを完全に空中に浮かせてしまいます。
メーカーの見本動画(YouTubeより)
メリット
ディッピング・ベルトだと骨盤にかかる力は斜め前方向になります。ヒップ・ベルト・スクワットでは骨盤の前後両方でウェイトを固定するので、骨盤が長軸方向に引かれ、腰骨と骨盤の間が牽引され、腰痛時にはそれが気持ちよく感じれます。
デメリット
骨盤の前後を固定点としてぶら下げるので、重心が骨盤の真ん中に来ます。スクワットでのしゃがみ込み動作は骨盤が後ろに引かれる動きなので、かなり重心が後ろに引かれることになります。後ろに倒れないためにかなり膝・上体を前に持ってくる必要がでてきます。
やり方
①ボトムポジションではかなり重心が後ろになるので、床からの立ち上がりはかなり難儀になります。そのためスタート時はウェイトは台にのせ位置を上げておく必要があります。
②シャフトにバランスよくなる位置にバンドを括り付け、またがり、カラビナでシャフトのバンドとベルトを連結させる。
③立ち上がり、台が干渉しない位置まで移動する。
④スクワットする位置では踵を上げるようにブロックなどをかませておき、膝の保護をする。
⑤スクワット中は重心が後ろに引かれるため上体を前にもってくるが、あまり過度に行うとバーベルの前半部が下がって床と接触してしまうので、バランス取りに注意が必要。
⑥スクワット終了後は、ウェイトを置く台の位置まで移動し、しゃがんでウェイトを置く。
ボックス上でのウェイト・ローディング・ベルト・スクワットについて
ローディングとは積み込みとか装着、装填という意味です。チェーンを用いてディッピングベルトにプレートやケトルベルを直にぶら下げるか、またはローディング・ピンを用いてプレートを吊るします。
ベルトぎりぎりに重りを括り付けると、重りの取り外しにかなり窮屈な感じになります。また、重りの揺れが骨盤にダイレクトに伝わる感じがし腰痛時には響くかも知れません。
逆に重りとベルトまでの距離を開けると遊びが生まれ、重りの揺れの衝撃が多少緩衝され負担が減る感じがします。しかし、ベルトと重りの距離が長い分、スクワットのしゃがみ込み時に重りがすぐ床についてしまうので、トレーニング効果が減ってしまいます。
そこで床と重りとの空間を確保するため足場を高くする必要が出てきます。そのためボックス上でベルト・スクワットを行うことが往々にし見受けられます。
見本動画(YouTubeより)
メリット
ランドマインで行うベルトスクワットやヒップベルト・スクワットのようにシャフトを使わないので場所を取らない。
デメリット
重りが完全に空中にブラブラ浮いている状態なので、バランス取りに注意が必要。特にボックス上に立っている時はバランス崩し落下すると非常に危険。したがって限界まで追い込むべき種目ではありません。
やり方
・床でウェイトをベルトに括り付ける場合は、取り付け後にボックス上に歩いて昇る。
・ボックス上に上ってからウェイトをベルトに括り付ける場合は、ウェイトも予め台に乗せておき、立ち上がったてからウェイトを乗せていた台を移動して(本人or第三者)、ウェイトの動くスペースを確保する。スクワット終了後はウェイトを乗せる台を元に戻してそこに重りを乗せ終了。
・もしくは予め台をコの字状に配列しておき、ウェイトを取り付けて立ち上がったら、前方(or後方)に移動し、ウェイトが沈み込むスペースを確保する。スクワット終了後はウェイトを降ろす位置まで移動して終了。
ランドマインによるベルト・スクワットについて
先ほど説明したようにランドマインはバーベルシャフトの片側こ固定して、そこを支点にもう片方を動かす運動です。
固定器具にシャフトを固定するか、中で動くようにするかで少し負荷のかかり方が変わってきます。
ランドマインでのベルト・スクワットでは、ベルトの連結部位が2通りあり、ウェイトプレートの内側に入ってからの連結と、外側からの連結があります。内側に入って連結した方が、外側より多少シャフトを高い位置で連結できるのでスクワットの沈み込み距離をより稼げます。
見本動画(YouTubeより)
メリット
真下にウェイトを垂らすタイプのベルト・スクワットと少し違った刺激を入れることができます。ランドマインのアタッチメントにシャフトを完全に固定してしまうと軌道は弧を描くようになるので、立ち上がった時にベルトが少し支点側に引っ張られるような感じになります。それを利用してハックスクワット気味に立ち上がると上体を立ててスクワットできます。
シャフトの固定せずに、ただ単にアタッチメントにシャフトを挿しているだけだと感触はローディング・ピンなどの真下にウェイトを垂らすタイプのベルト・スクワットと同じ感覚になります。
デメリット
シャフトの長さの分、場所をとります。
シャフトの一部が地面に着く形になるので、重さが分散されます。
やり方
①バーベルシャフトの片側をランドマインに差し込み、動かしている最中に浮き上がらないよう重りなどで固定する。
②シャフトのもう片方にウェイトを装着。
③ベルトととの連結するための支点として、シャフトにバンドを巻き輪っかを作り、カラビナでベルトと連結する。もしくは、ディッピングベルトの鎖を直接シャフトに結び付ける。
④シャフトに連結するポジションは、ウェイトプレートの外側か、内側の2カ所ある。外側に連結する場合、トレーニーはランドマイン側に向くことになり、スクワットの最中体が前に引っ張られて、前のめりになり易い。どちらかというとプレートの内側に連結してスクワットする方が一般的なようだが、個人のやりやすい方で行う。
まとめ
今回はベルト・スクワットを始めるにあたっての概略を説明しました。次回は実際に行う際の方法を説明します。