腹直筋離開の幅と骨盤底筋の機能不全とは関連があるのか?
腹直筋離開に関する正しい情報というのは一般になかなか降りてこないので、間違った情報が流通していたり、それを元に詐欺まがいのビジネスに誘導させられたりするケースを見かけます。
その様な観点から、腹直筋離開についての正しい知識を拡散するために、腹直筋離開に関する研究を不定期でご紹介しています。
今回は、腹直筋離開と体幹機能・骨盤底筋機能との関連について研究です。
【産後早期の女性における腹直筋離開の超音波による診断基準と骨盤底機能障害との関係】
【The ultrasound diagnostic criteria for diastasis recti and its correlation with pelvic floor dysfunction in early postpartum women】
出典;Quant Imaging Med Surg. 2021 Feb; 11(2): 706–713.doi: 10.21037/qims-20-596 《概要》 腹直筋離開の幅(IRD)の判断基準の確立と、分娩早期の女性の骨盤底機能不全(PFD)との関連を調べる目的で調査した。 健康な116人の未産婦と、検査で骨盤底筋の弱化が診られた102人の経産婦(産後3~12ヶ月)により、へその上3㎝、へそ直上、への下3㎝の3つのポイントで、超音波検査5年以上の経験を持つ臨床医によりIRDが計測された。IRDの計測時の姿勢は、両脚を伸ばした仰向けの安静時か、腹直筋の内側端が特定しづらい場合は、頭を床から約10㎝程上げたヘッドリフト姿勢を用いて行った。また、腹直筋離開が重度(幅が広い)場合は呼吸による変化がでるため、計測時に呼吸を止めてもらった。 また、断層超音波画像(TUI)を用い、骨盤底筋収縮、肛門挙筋裂孔、臓器脱の状態を計測した。 経産婦の59%は経腟分娩で、41%は帝王切開であった。アンケートによると、49人は症状がなく、53人にはPFD(腹圧性or切迫性尿失禁、性交痛、便秘など)があった。 未産婦のIRDの計測との比較で腹直筋離開の診断基準値は、へそ下3㎝で2mmを越える事、へそ直上で20㎜を越える事、へそ上3㎝で14㎜を越える事、と確立された。 経産婦では、平均的に安静位よりヘッドリフト姿勢の方がIRDは狭まるが、18人は広がった。9人は腹直筋離開の基準を満たしていなかった。腹直筋離開が起こっている位置は、へそ下のみが1人、へそのみが3人、へそ上のみが18人、へそとへそ下部が2人、へそとへそ上部が15人、全域分離が54人(58.1%)という内訳であった。 判明したことは、次の通り。 ・健康な未産婦では、IRDはBMIと正の相関があった。 ・腹直筋離開幅の重症度は、新生児の出産平均体重や、BMIや、出産歴ではなく、年齢と相関関係があった。 ・産後早期の腹直筋離開とPFDの間に明確な相関関係はなかった。 ・症状のある参加者と症状のない参加者で、IRDの広さに有意差は無かった。 |
解説
Quantitative Imaging in Medicine and Surgery誌に2021年に掲載された論文で、中国広東省の中山大学附属第3病院超音波科の研究です。
IRDとは、 inter-rectus distance の略です。腹直筋間の距離を指します。
今回の論文で判明したことを以下に解説します。
腹直筋離開発生の危険因子
従来言われていた腹直筋離開の発生の危険要因としては、BMIが高いこと、胎児が大きいこと、多産婦などが挙げられていましたが、今回判明したのは、出産時の年齢が関係していたという事でした。年齢が高まれば、重症度が高くなるという事です。
腹直筋離開の基準値
Diane Leeの「The Pelvic Girdle 4th」で紹介された研究では、正常な45歳以下の女性の腹直筋間の幅は、剣状突起とへその中間点で1㎝、へそ直上で2.7㎝、へそと恥骨結合の中間点で0.9㎝とされています。また、45歳以降では、それぞれ1.5㎝、1.7㎝、1.4㎝となっています。
今回の研究における腹直筋間の正常な数値とされているのは、上腹部が1.4㎝、へそ部が2㎝、下腹部が0.2㎝となり、45歳以下ではへそ部や下腹部が現在の基準よりシビアになっています。下腹部至っては0.2㎝とほぼ「無い」に等しい値です。
当院での腹直筋離開の基準値としては、様々な文献から総合的に判断して、上腹部・下腹部ともに1.5㎝程度を目安に定めています。
今回の研究では未産婦の腹直筋の幅も計測されました。実はこれは重要なことで、妊娠中に腹直筋の離開の幅がどうの程度広がったかは、その人の産前の状態と比較しなければ本当の悪化幅は分かりません。
例えば、産前に腹直筋間の幅がもともとあったのであれば、産後に腹直筋間の幅がすごく広がったように見えても、実際ののために広がった程度というのは低いものと見なされるという事です。
そして、妊娠前にBMIが高い女性はすでに腹直筋の間の幅が通常より広がっている可能性があるというのも見逃せません。
なお、以前ご紹介した2022年北京大学の論文【Does diastasis recti abdominis weaken pelvic floor function? A cross-sectional study】では、「産前・妊娠中・産後ともに低いBMIの人は腹直筋離開を示す」と言っていたので、今回の内容とは矛盾しています。従って、腹直筋離開の発症率は、本当のところはまだ断定的なことは言えず、今後の研究次第と言えるでしょう。
骨盤底の症状との関連
骨盤底の症状に関しては、先の論文には「尿失禁、骨盤臓器脱の有病率は腹直筋離開がないグループと腹直筋離開があるグループを比較しても統計的に差はなかった」とあり、今回の論文でも「症状のある参加者とない参加者の間でIRD値に有意差はない」と同じことが言われました。
つまりこれは、「腹直筋離開があろうがなかろうが関係なく症状が出ることがり、腹直筋離開があっても症状がないこともあり、両者は関係がない」という事です。
これは、従来一般的に言われてきた常識「腹直筋離開があると骨盤底の症状が出る」というのを否定する内容です。
ただ、今回の研究は産後1年以内に女性に限った調査です。骨盤底の症状はそれ以降に発症することもあるので、さらに長いスパンで見ていく必要があると思われます。
そのような事を踏まえると、産後は腹直筋離開があろうがなかろうが体幹筋や骨盤底筋に影響が出て、症状が将来的に出る可能性があるので、ケアをしておく必要があるとも言えます。
まとめ
腹直筋離開の施術をしている整体・サロンでは、過剰な不安を煽ってビジネスにつなげようとしているところが多数見受けられます。
ですので、正しい知識の普及のために今回、研究の紹介をさせて頂きました。この情報が何かのお役に立てれば幸いです。
では、今回はこの辺で。
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