腰痛時のバーベル・スクワットについて
【今回の記事はブログ統合のため、他ブログより転載した記事です(初出2015年12月)。】
カイロプラクティック的な視点でのトレネタという事で「腰痛時のスクワットをどうするか?」を考えていきたいと思います。
腰痛の時は、スクワットをしましょう!と言う様な健康雑誌での記事を見ますが、あれは運動不足の方の自重トレーニング(空身でやる運動)の話ですね。今回の話題は、バーベルを担いでのウェイトトレーニングとしてのスクワットの話です。
スクワットでは、担いでいる重量が上がるほど、腰痛リスクも高くなっていく傾向があります。一旦腰痛になると、なかなか元通りの重量を担ぐまでに復帰するのが難しくなりますね。
ここでは、全般的に腰痛を起してバーベルを担げなくなったところから、痛みが軽減してきてウェイト・トレーニングに復帰し、以前のレベルまでもどす段階までを想定してお話します。リハビリから競技復帰までのプレ段階を対象としています。
ストレングス(強化)を目的としてのスクワットに関しては、専門のトレーナーやリフター、ビルダーの方が多数いらっしゃいますので、そちらをお調べください。
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1、腰痛にならないようなスクワットとは?
まずは、全般的な腰痛にならないようなスクワットにするにはどうしたら良いかを探っていきたいと思います。
一般的なスクワットの指導法
一般的なスクワットのフォームの解説は以下のようになされます。
①スタンスは肩幅くらい。
②足先を左右対称の向きになるよう、若干の外側に開いた位置に置く。
③背筋を伸ばし、肩甲骨を内側に寄せて固定する。
④肩甲骨を寄せると、三角筋と僧帽筋のところにいわゆる「棚」ができるので、そこにバーを乗せる。
⑤膝の向きは、つねにつま先方向を向いており、動作中外れないようにする。
⑥基本的には、膝の位置はつま先を越えないと指導されるが、身体的特徴、コンディション、トレーニング目的などで多少の膝の前方移動はありえます。
⑦腰部保護のため、体幹は真っ直ぐ(ニュートラルポジション)に保つ。
⑧背中を丸めない。
⑨バーの軌道は、重力方向に真っ直ぐ上げ下げする。そうなるように体のポジショニングを修正する。
⑩理想は、モモの前面が床と平行になるまでのパラレルスクワット(ハーフスクワット)の位置まで腰を下げれるとベストですが、筋力や関節の柔軟性の関係でフォームが崩れる場合もあるので、フォームが崩れない範囲での下げ幅で。
これが一般的に指導される内容だと思われます。
昔ながらの指導では、この内容に加えてさらにいくつかの注意点が付け足されます。
①すねの骨と体のラインは平行に動くようにする。
②骨盤の前傾をしっかり作り、キープする。骨盤が後傾すると腰が丸くなり、腰部障害のリスクが高まる。 |
上記のような事が付け加わります。これは、私が所属しているNSCAのスクワットのガイドラインにも明記されています。しかし、これはあくまで一般的な手順であり、人それぞれ個人差があるので、必ずしもこれが絶対という訳ではありません。
2、スクワットのリスクに関する研究&報告
では、実際、スクワットではどういった事がリスクに繋がるのか研究報告のご紹介の一例を掲載していきます。
NSCA本部より発行されている研究報告論文集『Journal of Strength and Conditioning Research』誌より
バーベルスクワット時の股関節と膝関節のトルクに膝のポジションが及ぼす影響
【要約】
膝がつま先を越えて前方に動かしても良い条件と、木の障壁によってそれが制限されている条件2種類の、パラレルポジションまで下降させるバーベルスクワットを実施。膝と股関節の静的なトルクを調べた結果、制限なしの場合は膝関節トルク(N・m)=150.1で、股関節トルク=117.3であり、制限ありの場合は膝関節トルク=117.3、股関節トルク302.7であった
実施膝の前方への動作を制限することは膝のストレスを最小限にするが、股関節と腰の部分に不適切に力が配分される可能性がある。そのため、このエクササイズにおいて関節への負荷を適切にするためには、膝はつま先よりわずかに前方に位置することが求められるだろう。
ここでは、膝の前方移動がない場合は膝への負担は117.3で、前方へ移動してしまうのは150.1と負荷が約30%増大しています。しかし、逆に股関節に関しては、膝の前方移動がない場合は負荷が302.7で、膝の前方移動がある場合は股関節への負荷は117.3となり、膝の前方移動がない方が負荷が250%増大しているという結果を示しています。つまり、これは膝の動きをつま先上に置くことにこだわり過ぎると股関節・腰部の負荷を大きくかけているということを意味しています。
Volume 7, Number 8, 2000『NSCA japan』機関紙より
「ストレングストレーニングおよびリハビリテーションにおけるパラレルスクワット実施の効果と論争」より抜粋
【概要】
パラレルスクワット実施時に起きる下肢の二関節筋の動きは特徴的である。1つの筋で同時に、一方の関節側でエキセントリック(筋が伸びる)が起き、もう一方ではコンセントリック(筋が短縮される)が起きる。例えば、股関節が屈曲する際にハムストリングスでコンセントリックが起き、そして膝の伸展に伴ってエキセントリックが起きる。従って、このように大きな動作では筋全体の長さはあまり変わらない。身体が起き上がるときにも同じように下肢の筋で2つの筋収縮が起きる。スクワットでしゃがみ込む際、大腿四頭筋にエキセントリックな動きが起こって膝の動きをコントロールし、次にコンセントリックな動きによって直立姿勢に戻る。
膝が0°から90°に屈曲するにつれて膝蓋大腿関節にかかるストレスが増大することが示された。ほとんどのファンクショナル動作は膝の可動域内0~40°で行われる。この角度は膝蓋骨が最も不安定な角度である
スクワットを実施することによって、膝に傷害が起き易いと研究報告したのはKleinだけである。Kleinはフルスクワットを実施すると内側、外側そして前十字靱帯が弛緩してしまうとしている。MeyersはKleinが使用した測定機器を用いてフルスクワットとパラレルスクワット実施時に測定したが、内側・外側側副靱帯に有意な伸張の差は認められなかったと報告している。
Ohkoshiらはスクワット時に膝の屈曲が増すほど、大腿四頭筋の筋活動が活発になると報告している。また、体幹の屈曲角度を大きくするほどハムストリングスの関与が大きくなるとも言っている。
まず、スクワットでは大腿四頭筋の収縮と同時にハムストリングスの収縮が起きる。RenstromらとSolomonowら、Lutzらは大腿四頭筋の前方への動きに抵抗するハムストリングスの影響を観察した。ハムストリングスが刺激されると、膝が固定し、伸展動作の後半にアイソレートされた大腿四筋の収縮に伴う前方への剪断力を減少させる。スクワット動作中、膝だけではなく股関節や体幹も固定させるために、ハムストリングスはより大きく収縮するものと思われる。第2に、スクワットは荷重のあるエクササイズであるため、関節が圧迫され、ACLにかかる張力と剪断力が軽減される。そして第3に、腓腹筋が収縮し、脛骨が安定して間接的に膝にかかる剪断力が軽減される。
スクワットにおける問題点の一つが、膝関節に高い圧縮力がかかり、関節軟骨や半月版に損傷をもたらすという説です。また、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(スネの骨)にかかる剪断力(前後にずれる力)が高まる事による十字靱帯への損傷のリスクも議論されます。
空身でスクワットやった時にも、膝蓋大腿骨の圧縮力が自重の約4 倍かかると言われていて、剪断力でも自重の約2.5 倍かかると 言われています。その負担を軽減させるためには、上記のように太ももの前と後の筋肉の共働収縮がうまく働くポジショニングをとってやることが、膝を安定させて負担を減らすことになります。そのためにはハムストリング(太ももの裏の筋)が使えるようにすることです。
自分自身で前後両方の筋バランスが整った状態(両方の筋の緊張感が保たれている感覚)でいられるポジショニングを見つけ出す事が必要です。
他にもいろいろありまがすが、際限が無いのでまたの機会でご紹介します。
3、適正なスクワット・フォームは人それぞれある。
上記で検証してみたように、従来の指導法の内容について研究論文の中では「本当はちょっと違うんじゃない?と指摘をされている項目もあります。不勉強な指導者(バイト?)にかかると一律的に指導され、逆に故障のリスクを高めてしまう可能性があります。
とは言え、私も一番最初はガイドラインに準拠した指導を行います。それがまず標準的な方法なので、その事を知ってもらいたい、というのがありますので。そこから、それぞれのクライアント様の骨格や、体の使い方、柔軟性、弱いところなどの状態に合わせ、修正を加えていきます。
大体、私自身が標準的なスクワットをしません。膝を少し前に出します。膝の位置をつま先上にもってくると重心が引かれ過ぎ、腰に負担がかかるからです。これは、スタンスも関係しての結果です。あまり膝を前に出すと重心が前にのめってしまうので、程度問題ということです。
人それぞれ個人差があり、それを考慮してフォームも考えた方が良いと思います。
以前、廣戸聡一という有名なトレーナーの方が人間のタイプを4つに分類し、それに合わせトレーニング時のポジショニングなどを解説していました。その先生の言う事すべてが正しいとは思いませんが、感覚的には結構、実情にあっているのではないかと思っています。
スクワットでの要点は、他の多くのフリーウェイトと同じで、重力に対して垂直線上にまっすぐウェイトを押し上げてやる、ということだと思います。そこに対し、体を機能的に、負担のかからないように合わせていく事が大事だと思います。
人間は自然に立った状態では、体の重心の通過ラインは垂直線で、頭頂部から土踏まずの頂点の骨(立方骨)を通過します。基本的には、ウェイトを担いだ時も足裏では土踏まずの立方骨あたりに過重がかかるようにします。ただし、姿勢的には頭の真上にウェイトを乗っける訳ではなく、肩に担ぐのでその分、やや上体は前方に傾きます。
その位置から徐々にしゃがみ込んでいく訳ですが、その際、足裏の荷重の位置が土踏まずの頂点(立方骨)のあたりから、やや後方の踵よりに荷重点を移動させるようにし、しゃがみ込んでいきます。ボトム・ポジションまできたら、上体と腰のを同時に上げるように、ウェイトを持ち上げます。
立ち上がる際に、上体が前に被り過ぎていると腰だけが上がってきて、前のめりなったり、踵が浮いてきて荷重が母子球よりに来てしまいます。これはウェイトが重過ぎて支えきれない時に、重みを逃がそうと真上に立ち上がれなく、前にのめってしまうために起る事もあります。
4、バーベル・スクワットのフォームの修正案
スクワットで腰部を痛める原因の一つとして、フォームのミスの関与が大きいです。もっとも基本的なことは、再三、言っているようにウェイトを重力線に対して真っ直ぐ上に押し上げる事です。その事が実際のスポーツ競技の中での蹴り出す力や、体をしっかり支える力につながります。その目標を達成するにはどうしたら良いかを念頭において修正を図ろうとした時の修正案をいくつか考えてみました。
4-1、膝の位置と、上体ポジションと脛骨の傾きの関係
考えてもらいたい事は、ガイド・ライン通りパラレル以上に沈み込むボトムポジションで、膝がつま先上で、尚且つ脛の角度と上体の角度を合わせる、という姿勢はかなり無理があるのではないか?ということです。解剖学的には足首の背屈角度(反らす動き)は標準的に言って20°前後なので、上体の前傾角も20°くらいとなるということです。これだと上体が立ちすぎていて、ウェイトを担いだら重心が後に行過ぎ、後にひっくり返ってしまいます。
スクワット動作を最初、習得する練習として、壁にできるだけ近づいて向かい合ってスクワットをするというウォール・スクワットをやらされた経験がある人もいるでしょう。壁に向かい合えば、それ以上膝が前に出たりする事が制限されるし、上体が前に被るのも制限されるんでフォームの習得に最適とされています。
でもこれって、空身だからできることですよね?バック・スクワットの場合、ウェイトを担ぐので絶対、上体は前にかがむし、そうでなければ重心が後に引かれて倒れてしまいます。
つまり、重心が後に行き過ぎないようにするためには膝が若干前に出るのが自然であるという事です。
それを防ぐ手立ての一つとして、スタンスの幅を広めるというのがあります。ボトム・ポジションでは、重心ラインより股関節の位置が離れるほど、重心がそちらに引っ張られます。スタンスを広げる事は、重心ラインから股関節の位置を近づけることに繋がり、上体を立てやすくするので、膝が前に出ずらくなります。
4-2、腰部のニュートラルポジション
一般に、スクワット中は腰部が丸まらないように骨盤の前傾を強調されます。しかし、骨盤の前傾をやりすぎると腰椎が反り腰となる危険性があります。腰部の反らす動きがもともと硬い人は、骨盤の前傾を意識する事で腰部の曲がりを防止できますが、腰部が柔らかい人は前彎が過度になり、腰部を痛める危険性があります。さらに腰痛持ちの人では、腰を反らすと痛みが出る人が多く、腰部を反らすような動きの強要は痛みを悪化、長期化させます。
腰部は正中ポジションで、反らさず、曲げず、その中間位で保つのがベストです。いわゆるニュートラル・ポジションとよばれている位置になります。後述しますが、ニュートラル・ポジションでの腰部多裂筋・腹横筋の共働収縮を身につけてから、さらにそのポジションでリバース・ハイパー・エクステンションで起立筋も同時収縮で腰部を支える事を覚えます。その筋肉の収縮感覚を保ったままで、スクワットの動きをこなします。
4-3、胸を張って正面に向ける。
重心が後に引けると、バランスをとるために代償として上体を前に倒す姿勢が出てきます。その際、背部の筋力が弱かったり、柔軟性が低下していると背中が丸くなってきてしまいます。この姿勢は腰の椎間板の負荷を増し、障害の発生リスクを高めてしまいます。この腰部の丸くなるのを防ぐために、よく言われることが、背筋を伸ばし、肩甲骨を寄せ、胸を張って正面に向ける事です。
女子など柔軟性の高い人では、安易にこの姿勢を達成しますが、逆に反り腰を作り、腰部の負担を増やしてしまいます。また、過度の背中の湾曲は、体の柔らかい人では、しっかり背筋を効かせて背骨をフラットにしている上体に比べ、力が抜けて支えが弱くなっている場合もあります。
胸を正面に向ける指導は、腰椎の反り過ぎ作る可能性があり、腰痛持ちには症状を悪化させる危険があります。腰部のニュートラル・ポジションを作っている時は、背部もそのまま真っ直ぐ伸びている状態なので、そのまま肩甲骨を寄せる意識を持てば、それで充分だと思います。そこからさらに無理に反らす必要はないでしょう。
5、まとめ
今回は、腰痛時に対するスクワットをどうすれば良いか、腰痛の発生を予防するためのスクワットのやり方とは?の基礎編的なことを考察してみました。
まぁ、早い話、「痛いなら無理してやらなきゃいーじゃん!」といわれそうですが、
やっぱり、持たないとどんどん持てなくなってくるので、折角、持てるようになったのを落としたくない、というのが人情というものでしょう。
スポーツ競技をやっている場合、競技特性上やっておく必要性がある場合もあります。
そのような事で、今回は記事を書いてみました。次回は実践編みたいなことをアップしたいと思います。では。