カイロプラクティックと医療機関における医療過誤の比較
2016年10月初出の他のブログ記事のリメイクです。ブログ統合により転載します。記事内の資料は当時のものを使用しています。
カイロプラクティックの頸椎矯正に関する安全性/危険性に関するシリーズの第7弾。
医療過誤の発生率とカイロプラクティックの頚椎障害発生率との比較を行っていきます。医療者が過誤により、重篤症状を起こしているという事実があるのに、それを差し置いてカイロプラクティックの過誤のみを一方的に吹聴しているのは、おかしいだろうということです。
1、医療事故の危険性と発生率の比較
以前の記事では「カイロプラクティックの頚椎矯正における椎骨動脈解離の発生頻度」について具体的数値を明らかにしました。
その発生頻度は全体として、50万~580万回の頸椎矯正に1件(0.0002~0.000017%)、また別の報告では45歳未満では10万回に1件(0.001%)、と報告によってバラツキが大きいことが分かっています。
今回は医療過誤の発生頻度の具体的数値を明らかにしてみます。
両者を比較してみて、カイロプラクティックの事故の発生頻度のレベルがどの程度なのかが浮き彫りになると思います。
ここでは、手術などの大掛かりなイベントではなく、日常的に行われている注射・採血や、薬の服用による重篤な副作用と比較してみます。
2、薬の重篤副作用
まず、薬剤の重篤副作用の実数です。実はこの手の発生件数や発生頻度は、あまりよくわかっていないモノが多いです。そもそもそんなに頻繁に副作用が起っていたら薬剤認可が下りてないでしょうからね。
厚生労働省から発行されている「重篤副作用疾患対応マニュアル」より、薬の副作用で重篤な症状の発生率が分かっているものをかい摘んで掲載してみます。
《抜粋》
①神経遮断薬悪性症候群(悪性症候群)
・精神神経用薬(主に抗精神病薬)により引き起こされる。抗うつ薬、抗不安薬、パーキンソン病治療薬、制吐剤などの消化機能調整薬などの報告がある。
・服用後における、急な高熱や発汗、、意識のくもり、手足の震えや身体のこわばり、言葉の話しづらさやよだれ、食べ物や水分の飲み込みにくさなど、自律神経症状(頻脈や頻呼吸、血圧の上昇など)、横紋筋融解症(筋肉組織の障害:筋肉の傷みなど)などの症状が発症。放置すると重篤な転帰をたどる。
・副作用発症頻度は、精神神経用薬服用患者の 0.07~2.2%である。
②横紋筋融解症
・骨格筋の細胞が融解、壊死することにより、筋肉の痛みや脱力などを生じる。その際、血液中に流出した大量の筋肉の成分(ミオグロビン)により、腎臓の尿細管がダメージを受ける結果、急性腎不全を引き起こすことがある。また、まれに呼吸筋が障害され、呼吸困難になる場合がある。
・多臓器不全などを併発して生命に危険が及んだり、回復しても重篤な障害を残したりする可能性のある。すみやかな対応(服用中止、輸液療法、血液透析など)により腎機能の保護をはかり、回復の可能性を高める必要がある。
・原因医薬品としては、さまざまな種類の医薬品があげられる。主に高脂血 症薬、抗生物質(ニューキノロン系)などが知られている。
・HMG-CoA 還元酵素阻害薬
現在、最も副作用報告の多い医薬品である。米国における調査ではスタチン服用者において筋肉痛は、2~7%で生じ、CK(やクレアチンキナーゼ)上昇や筋力低下は 0.1%~1.0%で認められる。重篤な筋障害は 0.08%程度で生じ、100万人のスタチン服用者がいた場合には、0.15 名の横紋筋融解による死亡が出ていることになる。
③急性散在性脳脊髄炎
・ワクチン接種後などに生じる脳や脊髄、視神経の疾病。免疫力が強くなりすぎたための自己免疫疾患と考えられる。神経線維を覆っている髄鞘が破壊される(脱髄)。
・ワクチン接種後の場合は1~4週間以内に発生。発熱、頭痛、意識が混濁する、目が見えにくい、手足が動きにくい、歩きにくい、感覚が鈍いなどの症状。重篤な後遺症を残す場合も多く、死亡率も高い疾患である。
・本邦において現在使用中のワクチンの中で急性散在性脳脊髄炎との関連性が考えられているのは、インフルエンザワクチン、B 型肝炎ワクチン、日本脳炎ワクチンの3種類。
・ワクチンを接種した人の本症合併頻度は、出荷されるワクチンの量から推定したところ、1000 万回のワクチン接種に対して 1~3.5 人であり、この頻度で中枢神経系あるいは視神経炎の合併症が生じるといわれている。後遺症状を残さない軽症例も含めると頻度は多くなる可能性があり、一過性の急性脱髄病変は 10 万回の接種で1回以下の発症であるという推計もある。
④小児急性脳症
・炎症を伴わない脳の急激な浮腫。
・意識障害、脳圧亢進症候として嘔吐、乳頭浮腫、脈拍・血圧・呼吸の変化、瞳孔・眼球運動の異常、肢位・運動の異常などがみられる。
・解熱鎮痛薬(アセチルサリチル酸、メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウムなど)、キサンチン製剤(テオフィリン)、バルプロ酸ナトリウム、抗ヒスタミン薬、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムスなど)、グリセオールなどで発症報告がある。
・発生頻度は、平成20年度はテオフィリンが3件、アミノフィリンが2件、平成21年度はテオフィリンが4件報告されている。テオフィリン使用中のけいれんの実数は不明であり、副作用報告で全数を把握しているわけでもない。しかし、けいれん重積を来たし急性脳症様の経過を呈する重症例に関しては、水口の試算28) では年間60-80人と推定されている。
⑤再生不良性貧血(汎血球減少症)
・骨髄で血液が造られないために血液中の赤血球、白血球、血小板のすべての血球が減ってしまう病気。
・貧血の症状として、皮膚に青あざができやすくなる、疲労感、どうき、息切れ、歯ぐきや鼻の粘膜からの出血がみられるなど。好中球が減少において、敗血症や肺炎といった重症な感染症にかかりやすくなる。重症や最重症患者においては、充分な治療が行われなければ短期間に死亡にいたるケースも多い。
・抗生物質や解熱消 炎鎮痛薬、抗てんかん薬などによっても汎血球減少をおこす可能性がある。頻度の差はあるものの、基本的には多くの医薬品が再生不良性貧血の原因となりうる。主に報告例は、ダナゾール、卵胞・黄体ホルモン配合剤、副腎皮質ステロイド薬、トラネキサム酸、トラジロール、L-アスパラギナーゼ、遺伝子組換え血液凝固活性型第 VII 因子製剤、トレチノイン(all-trans retinoic acid: ATRA)など。
・自然発生における発生頻度は、わが国における年間新患発生数は人口 100 万人あたり 5 人前後と推定されており、これは欧米の 2~3 倍の発症率である。医薬品に起因すると考えられる再生不良性貧血の発症頻度は低く、わが国の最近の統計では5%以下である。
⑥その他
ワルファリン の引き起こす血栓症(脳梗塞,肺梗塞、心筋梗塞、静脈血栓など)や、不整脈の治療薬以外にも、抗精神病薬、抗うつ薬が引き起こす心室頻拍なども有名ですが、具体的な発生頻度が示されていないため割愛します。
上記の抜粋記事から発生頻度の項目だけを取り出して並べてみると、以下のようになります。
①神経遮断薬悪性症候群(悪性症候群)では 0.07~2.2%(1400人~50人に1人)
②横紋筋融解症(HMG-CoA 還元酵素阻害薬 )では筋肉痛は、2~7%(100人中2~7人)、CK(やクレアチンキナーゼ)上昇や筋力低下は 0.1%~1.0%(100人~1000人に1人)。重篤な筋障害は 0.08%(1250人に1人)程度で生じ、1000万人に1.5 人の死亡。
③急性散在性脳脊髄炎では、1000 万回のワクチン接種に対して 1~3.5 人、軽症例も含めると頻度は多くなり、10 万回の接種で1回以下の発症。
④小児急性脳症は薬剤使用数がわからないので、発生率は不明。⑤再生不良性貧血(汎血球減少症)は発生頻度極貧なので割愛します。
横紋筋融解症などは患者さんの手記が以前、一般誌に掲載されていたりして、割りに名前を聞いた事がある人もいるかも知れません。高脂血症など一般的な薬で引き起こされます。また、精神疾患等で使用される薬で悪性症候群が引き起こされます。これらの薬による発生頻度と比べてみると、カイロプラクティックの頚椎矯正による動脈解離の発生頻度はどうでしょうか?明らかに過剰に反応するようなものではないという事がわかります。
次に、これまた日常的に医療現場では行われている注射や採血などの行為で過誤発生の状況との比較をしてみます。
3、注射の医療過誤
文献中で提示されていた、採血,点滴,麻酔注射,穿刺,腱鞘注射などの医療行為により,生じた神経損傷の発生数の調査では、
・神経損傷による主要な症状は,しびれ,痛み,運動麻痺であるが,反射性交感神経性ジストロフィ(Reflexsympatheticdystrophy ; RSD)のような難治性の病態に至る場合もある ・Horowitz らの報告では0.004% ~0.016% ・堺らの報告では0.006% から0.014% ・採血時のみの報告では、藤田らの0.0001%、大西らの0.007% ・秋田大学医学部附属病院 2009年 では0.0036% |
全体をまとめると、0.01~0.001%の間なので、1万~10万回に1回事故が起る計算になります。
次に採血時の過誤発生のみの報告をみてみます。
【注射針による神経損傷に関連した献血:大規模血液センターからのデータに相当する2年間の評価。】
【Blood donation-related neurologic needle injury: evaluation of 2 years’ worth of data from a large blood center.】
著者;Newman BH, Waxman DA. Transfusion. 1996 Mar;36(3):213-5. 【抜粋】 2年間で、419,000の献血の採血中に66件の注射針で神経損傷の発生が、看護師の報告により挙がっている。報告された症例は、痺れ・うずき、痛み、腕や手の筋力低下などである。56人が医師によりフォローされ、回復に要した期間は、3日以内が22人、4~29日が17人、1~3ヶ月が13人、3~6ヶ月が2人、それ以上が2人となっている。56人の内、52人は完全に回復し、残り4人は局所的な軽い後遺症が残った。その頻度は軽症のものを含めると6,300回に1回となる。静脈穿刺に伴う神経損傷の発生頻度は比較的低く、大方は回復する。
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この報告はpubmedからの検索によります。この論文では、軽症を含めた神経損傷発生の割合は6,300回に1回なので、約0.016%の頻度で起るということが明らかになっています。その他、厚生労働省の発表によると、静脈穿刺に伴う神経損傷の回復期間が1カ月以上の症例では、20,500回に1回程度の頻度であるとされています。
また日本赤十字社の報告によると次のようにあります。
日本赤十字社ホームページより
『健康被害は、採血により体調不良・神経損傷・皮下出血等の症状により治療を必要とするもので、軽微なものも含めると総献血者数の約1%(5~6万件/年)に発生しており、そのうち医療機関を受診する方は、総献血者件数の約0.01%(700~800件/年)を占めています。』
『採血中や採血後に気分不良、吐き気、めまい、失神などが約0.9%(1/100人)、針を刺すことによる皮下出血が約0.2%(1/500人)、神経損傷(脱力感や痛み)が約0.01%(1/10,000人)程度の頻度で発症します。』
注射による神経損傷の発生頻度の報告をまとめてみると、
採血,点滴,麻酔注射,穿刺,腱鞘注射などを全て含めると、0.01~0.001%(1万~10万回に1回)
Newman , Waxmanらによると、約0.016%(6,300回に1回)
日本赤十字社の報告によると、約0.01%
となります。
繰り返しになりますが、この数値をみてみても医療現場で日常的に行われる採血や注射での医療過誤と比較しても、カイロプラクティックの頚椎矯正の障害発生割合は低い事がわかります。
4、実例
実は注射の過誤は、結構、頻繁に見かけます。私が遭遇した事例を挙げてみましょう。
4-1、患者様でのケース
以前勤めていた接骨院では、数年前に注射(かなり前のことなので静脈注射だったか定かではありませんが)を打ち、それ以来指先にしびれが出て消えなくなっていた患者様が通われていました。
接骨院への支払いは、事故先の医院からの示談でまかなわれていましたが、後遺症発生から数年経過して症状固定のままなので、ご本人も痺れに対しては諦めており、接骨院の利用は主に肩こりなどでした。
神経の損傷は、ワーラー変性という細胞の消滅過程を経ます。ただし、この変性から回復するものもあれば、細胞が消滅してしまうものもあります。
脳・脊髄などの中枢神経は回復が困難とされていてます。末梢神経では神経細胞の本体である細胞体は分裂増殖できないので、死滅したらそれで終わりですが、神経線維である軸索は回復できます。ただし神経の修復は1日に1mm程度といわれています。
損傷程度が大きいとそれだけ時間がかかります。損傷して1週間ほどから修復過程は始まり、治癒するまで3ヶ月~1年程度かかります。
4-2、自身のケース
実は、私自身も注射による神経損傷を患った事があります。20年程度昔の話ですが、足首の内側を捻挫してしまいました。足首の捻挫は、外くるぶし側の方が発生頻度が高く、世間的にも頻繁に見られますが、比較的治りも早いのです。それに比べ、内くるぶし側の捻挫は、外くるぶしより発生頻度は少ないのですが(靭帯が丈夫なため)、治りが悪くなります。
あまりに治りが悪かったので、当時、近辺では有名な整形外科医院で、消炎鎮痛剤の注射をしてもらいました。2回目の注射を内くるぶしの下側当りに打ってもらった瞬間、足の裏側全体にビリビリと強烈な電撃痛がきたのでした。しばらくすると電撃痛は消えましたが、それ以来、ちょっとでも内くるぶしを押すと足裏までビリビリ痺れがくるようになってしまいました。
その時はスキーをしている時期だったので、スキーブーツが丁度そこに当たってしまい、痺れてまともに滑れなくて参りました。再び医者に行き、事情を話すと、「神経が炎症起こしたんだろ」と湿布を1枚貼られて終りました。
何時までたっても治らないので、もうダメかなこりゃ、と思っていたら半年くらいから痺れが減り、1年後には治る事ができました。
後脛骨神経を損傷していたのですね。その時はそんな知識もなかったので、言いなりでした。今思えば、神経損傷なのに、湿布の処置は違うという事は解ります。
5、考察
今回、比較対象として取り上げた医療過誤は、日常的に行われている注射や投薬による物です。注射による神経損傷などは、重篤症状の範疇には入りませんが、そのようなささやかな行為にもリスクは存在するという事を示すために、取り上げさせていただきました。
また、投薬による悪性症候群や横紋筋融解症、急性散在性脳脊髄炎などは、本当の重篤症状を引き起こしますし、引き起こす薬剤も幅広くあります。そして、これらの発生リスクと比べてみても、カイロプラクティックが引き起こす重篤症状の発生リスクは低い事がわかります。
さらに、リスクは医療機関によるものだけに存在する訳ではありません。その他の代替医療・医業類似行為にもリスクは存在します。マッサージや柔道整復による肋骨の骨折や、筋挫傷、鍼による気胸、金属アレルギーや感染による腫れ、灸による火傷などはよく聞く業務過誤です。
今回の記事で目的としている事は、他業種の揚げ足を取って、相手を貶めることではありません。全ての事にリスクというものはあり、私たちはそのリスクを受け止めることによって、利便性や効用の恩恵を受けている、ということを冷静に認識する必要があるのではないかということです。そしてカイロプラクティック業を営む者は、見て見ぬふりをするのではなく、正しくリスクを認識し、如何にそのリスクを極限まで減らしていく、未然に防いでいくかというところに最大限の努力をしていくことが必要あると考えています。
6、まとめ
今回は、西洋医学VS自然医学という観点から、医療過誤リスクの比較の検討をしてみました。次回以降は、首の矯正中に血管に掛かるストレスとはどのようなものか?また、それを防ぐためには?頸椎矯正の副作用などについてお話していこうかと思っています。
では、今回はこの辺で。
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