妊娠中の股関節・腰部の痛みでご来院
季節柄なのか、最近妊婦のご新規さまが増えています。
妊娠期間は5ヶ月目~9ヶ月目と様々ですが、だいたい腰痛と股関節痛が多いです。
妊娠期間中では、後期になるにつれ症状がでる傾向にあります。お腹が大きくなるにつれ負荷が増加するので当然といえます。
最近ではマタニティに対する整体・カイロプラクティックの認知度も上がったせいか、産科で勧められてお越しになる方もいて時代を感じさせます。昔では考えられませんでした。
そのような中からいくつかの症例のご紹介です。
1、左の股関節周辺の痛みの訴えの妊婦A様
1週間前より突然左の股関節の後ろ側が痛み出したという訴えの妊娠9ヶ月目の妊婦さんです。
来院当初は歩く姿勢もビッコを引きながらで、痛そうな様子でした。
ただし、股関節自体のストレス・テストは全て陰性。したがって筋肉が痛んでいるようでした。しかし、痛む範囲は漠然としたもので、コレといった明確な障害筋を指し示せません。抵抗運動でも反応はありませんが、立って体重がかかると痛みが強く出ているようです。
お二人目のお子さんですが、お一人目の時はこのようなことは無かったと言います。
股関節からでん部にかけての筋肉が全般的に硬くなり、どこを押しても痛いということです。
鑑別的な処置として最初は軽めに緊張している筋を緩めますが、再び立って歩いてもらうと、ほとんど症状は変わりません。歩き方も傾いていますが、姿勢が悪くて痛くなっている訳ではありません。痛いから姿勢が傾くのです。
さらに下肢や腰部も含めての筋のリリースをして、再び歩いてもらっても症状変わらず。
最終的には中殿筋という股関節外側の筋の更なる深部へのリリースと、左の骨盤が後方へ変位しているようなのでその修正を加えたところ、歩行時の痛みが半分くらいまで減りました。
妊婦さんへの施術は慎重を期すため、アプローチは弱めの刺激から初めて、何度も試しながら行うので手数が増えてしまうことになります。今回も、最初の回はこれで様子を見てもらうことになりました。
2、痛みの箇所が不明瞭な左股関節痛の妊婦B様
1週間前より急に左の股関節周辺に痛みが出たというクライアント様です。ちょうど痛みが出る前の3日間に仕事で外を歩き回ることが多かったというので、そのことが発症の引き金になっているようです。
股関節に関するストレス・テストは陰性のため、関節内の問題より周辺の筋の問題のようです。通常股関節の痛みでは体重がかかった時に痛みを感じるケースが多いですが、今回の場合はモモを引き上げる動作や、股関節を曲げ始めた時に痛みを感じます。
そこで股関節を曲げる筋肉を中心に股関節周囲の筋を押してみると、いたるところに痛みを訴えコレといったメインとなる問題筋が特定できません。特に股関節を引き上げる重要な筋として大腰筋という筋肉がありますが、これはお腹の中を走行している筋で、その前に子宮が存在するので実際その筋を押して確認することはできません。ストレッチはかろうじてできるので行ってみますが、それで症状自体は変化がありませんでした。
骨盤の関節の不安定性に起因する痛みの可能性もあるため、骨盤の2箇所の関節(仙腸関節、恥骨結合)を固定してみても痛みに変化は無く、この可能性も否定できます。
痛みの箇所が不明瞭であったり、広範囲である場合は深部の組織が問題である可能性があり、今回のケースでは
・円靭帯(子宮を支えている靭帯で、鼠径部前面の上下に痛みを出す)の問題
・大腰筋(腰骨から恥骨前面を乗り越え、股関節に付着している筋)の問題
・骨盤内の神経の圧迫
これらの可能性も考えられます。
何れにしろ、一発で症状を取ろうと無理強いするのは、妊婦さんにとっては非常にリスクが高いので、複数回に分けて状況の変化を見ながら徐々に探っていくのがベストです。
今回は初回での施術では大した変化を出せませんでしたが、上記のような説明をさせて頂き終了させて頂きました。
この方は、これっきりで再来はありません。見限って他へ移られたかもしれません。もしそうでしたら残念ですが、そのことで当院のスタンスを変えることはありません。クライアント様の安全を第一に考えることが使命だからです。次回、試そうと準備していたことがいくつかありましたが、それはまた別の機会に似たような症例の方が来院された時にとって置けばいいだけの話ですからね。
3、腰部からお尻にかけての痛みと、肩こりの訴えの妊婦C様
5ヶ月目の方で、2ヶ月前くらいから症状が悪化してきたという訴えです。
この方は、昔から腰痛・肩こりはあったとそうで、姿勢も典型的な腰部前弯-胸部後弯姿勢です。元々腰が反りが強い人は妊娠期はお腹が大きく・重くなるにつれ、余計に腰の反りが強まってしまうというのは想像に難くありません。
背中が張ってくればその分、肩も張ってきます。通常、妊婦さんの場合ではリラキシンという組織を柔らかくするホルモンのために関節の柔軟性が非妊娠時に比べ増していることが多いのですが、この方の場合、背中の関節が硬く胸を反らせる動きがとても行いづらくなっています。
妊娠前の悪い姿勢や、身体の硬さなどが、妊娠期に助長されて余計に辛さを生んでいるようです。このような場合は、柔軟性の向上や筋の張りを取るのを第一目的に施術を行います。
今回の方は、一番辛さを訴えていた殿部の痛みと、肩の凝り感は、初回施術後軽減しましたが、まだ腰が残るようでした。ただこれも、一発で取ろうとするより段階を経て徐々に改善していった方が、身体に負担無く安全であるということをご説明し、初回の施術を終えました。
また、仕事が立ち仕事の方なので、支えるために余計に腰に疲労が蓄積しています。そのためセルフケアとして自分でできる運動をいくつかお教えし、なるべく効果が持続するよう努めていただくお願いおしておきました。
4、妊婦さんの施術で全般的に言えること
先の文中でも触れてありますが、妊婦さんの施術では刺激量を最初はできるだけ低く抑え、慎重を期すということを心がけています。
最も避けなければいけないことは、流産や早産を誘発するということです。早産では未熟児が生まれてしまう可能性があります。そうなればその後、母子ともに長い間健康に関する不具合を抱えなければいけない状況になってしまうかも知れません。流産ともなれば、命の喪失を意味します。
これらの状況に施術がどれほど影響するかは本当は分かりませんが(相当、乱暴な行為や無知な行為でもしない限りほとんどの場合は問題ない)、少しでも可能性のあることは避けておくことが無難です。
どのような点を気を付けるべきかというと、一例を挙げて見ますと…
・科学的知見としてのデータは手元にありませんが、一応東洋医学的にいって下肢の内側のラインは子宮の収縮を誘発するとして、慎重に対処するように昔から言われています。またそのようなツボもあります。
・病理的な観点からは、鼠径部の大腿動脈部の刺激は血栓を飛ばす可能性があるため禁忌とされています。そのため、内股周辺の施術も慎重に行う必要があります。
このような妊婦さん特有の注意点がいくつかあるのでそれを注意しつつ、また刺激を加えた反応を見て評価をしつつ、更に必要なら、なおかつ大丈夫そうなら、更にもう少し力加減を強めにして刺激してみる、というように物事を進めていくのがベターです。
さらにこのことは一回の施術内で終わらせるということではなく、施術を複数回することで達成させるという観点も必要です。例えば筋肉のこわばりが問題になっている場合でも、一気に取ろうとするのではく、玉ねぎの皮をむいていくが如く徐々に芯に到達させるというようなイメージで捉えていただくと良いと思います。
5、まとめ
妊娠期間中は完全な姿勢の改善はそれほどこだわる必要は無いと考えています。なぜなら分娩に向けて常にお腹は大きくなり、重くなり、それに合わせて姿勢は変化し、骨盤の形も変化してくるからです。悪いように崩れているならそれ以上悪化しないように手助けしてあげ、不快な症状の軽減を目的に妊娠期をできるだけ快適に乗り越えられるよう定期的にケアしていくことが大事です。
同じ妊娠期を過ごさなければいけないのなら、より快適に過ごせるようにしたいものです。カイロプラクティックはそのお手伝いに最適と信じています。ご興味のある方は、ご検討されるようお願い申し上げます。
では、今回はこの辺で。
この記事が何か皆様のお役に立つことがあったならば、facebookで「いいね!」を押したり、twitterでつぶやいていただけると、本人のやる気につながりますのでお願いします。