施術に全く反応を示さない小指側の手の痺れの症例
最近、手の痺れのクライアント様が立て込んでます。
以前、ご紹介した手の痺れの症例のクライアント様とは別の方の症例です。
1、小指・薬指の痺れのクライアント様
数ヶ月前から右手の小指と薬指にピリピリとした痺れ感と、膜が一枚張り付いたような感覚の鈍さが強く感じられるようになったという訴えの60代女性。
丁度、同時期より清掃業務の仕事に就いたということであり、同時に肩と肘にも痛みが出て、その痛みの増悪に同調して痺れ感も増すということなので、状況から考えれば単純に労作性(使い過ぎ)の症状だろうと推測されます。
検査では小指・薬指の軽度痺れ感・知覚鈍麻以外に異常所見は目ぼしいものはなく、筋力正常、腱反射正常、神経の伸張テスト正常、チネル兆候なし、関節可動域正常、動作痛なし、一連の神経絞扼障害のテスト正常、ジャクソン・スパーリングテスト正常という結果です。
振動覚が若干の鈍麻あり、関節位置覚も手足共に若干の弱化がありましたが、左右共に同程度なので異常とは言えません。手の反復拮抗運動では症状のない手の方が成績が悪い。指鼻検査も両側で若干の弱さが見られます。振動覚や位置覚は体の位置を把握するための感覚です。指鼻検査や反復拮抗運動は、運動調節障害を診るものですが、体の位置を把握する情報がないと上手く出来なので関連があります。
しかしこの様な運動調節機能は、ある程度の年齢に達すると鈍くなってくるので、その検査結果がもともとの生理的なものなのか、病的なものなのか軽度のものでは判断がつかのい場合もあります。
明確なのは小指側に限局した知覚異常ですが、その他の尺骨神経や第8頚神経(これらがこの領域を支配している)のテストではこれと言った異常を見出せません。
筋肉的な問題、関節運動学的な問題も見出せません。筋肉的な問題としてはトリガーポイントが考えられますが、小指側に関連痛を引き起こすとされる前腕部、上腕部、上後鋸筋、頸部筋内にそれらしい箇所は発見できませんでした。
つまり、労作性の兆候も見えず、知覚異常以外の神経障害兆候も見えず、ということになります。
一応念のため、神経の通り道をリリースし、その部位に関連痛を引き起こすであろうトリガーポイントが発生しそうな筋肉の処置、関節可動域の問題ありそうな部位の修正を行いました。
しかし、発祥原因が不明なので、当然、効果なし。初回はこれにて終了。
1週間後に再度、ご来院いただきましたが、状況は変わらず。術後も変わらず。
2、考察
末梢性の問題でなければ、中枢性の問題が残ります。
今まで読んだことのある文献で、手に痺れ感だけを出し、その他の神経学的な所見が見られなかったと報告された症例を挙げてみます。
①上部頚椎部のヘルニア・良性腫瘍・変形による脊髄後索(体の位置感覚を伝えるところ)の圧迫の初期症状
この場合、多くは手の脱力、筋萎縮、頸部痛も伴うことが多いですが、今回のケースでは頸部痛のみ当てはまりました。
②後索病変の多発性硬化症による急性固有感覚障害の偽性アテトーゼの一種
固有感覚の減弱があると、痺れと感じることがあります。偽性アテトーゼは目をつむっていると、ゆっくり動き出す兆候です。この方では、気を抜いていると右小指が内側に捻れてくるというので、以前はそれがなかったというのが最近出てきたというので、そこが気がかりでした。
③過換気症候
基本的には、痺れは手足などに広く出て、小指だけという限局されて痺れが出るというのは考えずらいです。しかし、現場では教科書的でない症状の出方というのもあるので考慮が必要。
④中心後回の手の部分に限局された小さな病変(梗塞など)
中心後回は、大脳の表面(大脳皮質)の真ん中ほどを、脳の前後を分けるようにある溝(中心溝)の後の縁に当たる部分で、体の感覚情報が伝わる場所です。
このようなものが報告されています。これらは他の神経学的所見がないと、施術院レベルでは分からないですね。画像診断が必要です。
そこで病院での精密検査(MRIなど)をお願いすることになります。
3、結果
このクライアント様は、次回ご予約日時までの間に病院での検査を受けてきていただく手はずになっていました。しかし、ご予約当日は無断キャンセルでいらっしゃいませんでした。確認の電話をしてみても連絡はつきません。したがって検査結果はわかりません。そもそも検査自体を受けていない可能性もあります。
病院での検査をお願いすると、往々にしてこなくなる事があります。多分、面倒くさくなって他のところに行くのではないかと思います。この方は常連さんですが、それでもこの様な事はおこります。
大抵の場合、検査をしても私が危惧するような重大疾患のようなものは発見されず、徒労に終る場合がほとんどです。しかし、可能性があるならば検査する必要があると考えます。当院にはその義務があり、それに従って病院での検査の提案をしているのです。しかし実際に受ける・受けないの決定権があるのはクライアント様ご自身であります。仮に僅かな可能性しかないものですが、危惧される重大疾患が不幸にもあったとして、それでもこのクライアント様が検査を受ける必要がないとご自身で判断されたのなら、それはそれで仕方がないことだと考えています。
それが素で、こんなところは狼少年のように嘘っぱちをけしかけてるところだ、と信頼を落としたとしても、別にそれは使用がない事だと考えています。私は毎回クライアント様と向き合うとき、施術やご提案などベストな対応をするよう努力しています。ですので、反省する事はあっても後悔することはありません。ベストをやっているので。それで受け入れられないようであったなら、それはそれで縁がなかったという事です。そこら辺に関しては私自身は迷いはありません。
5、まとめ
今回の症例は後味のスッキリしない結果になりましたが、今回の事例を踏まえ、さらに「診断行為」というものについて、当院のような施術院ではどういう風に捕らえているのか、実施しているのかを掘り下げてご説明していこうと考えています。
今回はこの辺で失礼します。