肩の関節唇損傷による痛みとは
肩の痛みシリーズ第4弾の記事で、今回は関節唇損傷にフォーカスしてお送りします。
先ず過去記事を先に読んで頂くと理解が早いと思います。
過去記事はこちら
①五十肩の痛みについて
今回の内容は
1,関節唇損傷について
2,セルフチェック法
3,セルフケア法
となっています。
肩関節唇損傷について
肩甲骨の関節面は小さく、平坦に近い窪みで、それだけでは上腕骨頭との接触面が少なく、関節が安定しません。そこで肩甲骨側の関節の窪みの縁には、ひさし状に軟骨が縁取っていて、上腕骨頭との接触面積を広げるようになっています。これを関節唇といいます。
この関節唇に無理な負担がかかると、関節唇断裂(傷が入ること)や関節の窪みからの剥離(部分的にはがれる)が起こります。
関節唇損傷にはBankart(バンカート)損傷とSLAP(スラップ)損傷があります。
図の水色で縁取った部分が関節唇、オレンジ色で塗った部分がSLAP損傷を起こしやすい領域、青色で塗った部分がBankart損傷を起こしやすい領域を示しています。
Bankart損傷は、関節唇の下側の剥離損傷 で、肩関節脱臼に伴って起こります。今回は一般的な肩の痛みというテーマでお話を進めていたますので、脱臼関連の話はここでは省きます。
SLAP損傷は関節唇の上方の断裂・剥離損傷です。関節唇上部は上腕二頭筋長頭の腱が付着しているのですが、この筋の引っ張り+腕の捻じりが反復で繰り返されることにより、関節唇上部に断裂が生じます。
多くは野球の投球動作やバレーボールなど、手を頭上に挙げる動作を頻繁に行うスポーツで発生します。40歳以上の関節唇損傷になる人は、同時に回旋腱板損傷も併発しているリスクが高いです。
SLAP損傷に対する定説
従来の考え方では、SLAP損傷に対する保存療法(リハビリ)は効果がなく、修復手術の実績が良好なので、治療の第一選択肢としては手術をすることとされてきました。私も最近までそのように考えていました。
しかし、近年の研究からそのことについて疑問符がつけられています。
まず、MRIでSLAP損傷が見つかった人の中でも、痛みなく腕を上に振りかぶる動きをするスポーツ競技を続けている人が一定数いるという事があります。つまり、SLAP損傷が痛みの原因になっているのであろうか?という疑問が持たれます。
次に、特に高齢者ではSLAP損傷修復手術後に、逆に肩が固まったり、痛みが長引いたりすることがあります。
参考までに下に論文を上げておきます。
【アスリートにおける上関節唇の前後の断裂の管理について】
【Superior Labral Anterior to Posterior Tear Management in Athletes】
出典;Open Orthop J. 2018; 12: 303–313. 《概要》 米国メジャーリーグのドラフト対象者1750名の負傷歴を3年間評価した。MRIと対面による評価を行った。SLAP損傷を持った投手において、外科的手術より、肩後面の柔軟性確保と肩甲骨位置修正のリハビリの方が治療成績が良かった。手術を受けた投手はプレー復帰率が48%だった。 |
セルフチェック法
SLAP損傷を鑑別する徒手テストは数は多いですが、正確性に難があるものが多いです。その中でO’Brien testとクランク・テスト、バイセップ・ロードⅡテストは代表的なものとして行われます。
本来のチェック法は2人で行うものですが、今回も1人で出来るように説明しています。
SLAP損傷
O’Brien test(オブライエン・テスト)
やり方
①検査したい方の腕を肩の高さまで肘を伸ばして上げる。
②親指を下に向けて手の平が外を向くように捻じる(肩の内旋)。
③腕を10°ほど内側に移動する。
④この位置で腕をキープし、反対の手で検査側の腕を下方向へ押す(図①)。
⑤検査側の腕は抵抗してその場で保つ。この時、肩に痛みや引っかかり、音がしないか注意。
⑥次に腕の位置はそのままで、手の平が上~外側に向くように最大限に外側に捻る(肩の外旋)(図②)。
⑦⑥の位置で、反対側の手で検査側の腕を上から下へ押し、⑤で痛みが出ていたのが、今度痛みなく出来るか観察する。
検査側の腕を床と水平に上げて、内側に捻じり、体の正中に向けて動かす、というのは上腕二頭筋長頭腱が関節上部に付着しているところに引っ張り負荷がかかる肢位です。そこで力を入れさせさらに上腕二頭筋を緊張させ、関節唇が断裂しているところにストレスをかけて症状を誘発するテストになります。
最初に内側に捻っていた手を、次に外側に捻るのは、少し上腕二頭筋にかかっていたストレスを軽減させています。この状態で抵抗運動させて痛みが軽減すれば、上腕二頭筋腱の関与していたことが分かります。
Glenohumeral Internal Rotation Deficit (肩甲上腕関節内旋減少)
回旋腱板損傷の記事の肩後面の柔軟性を検査する方法やストレッチ法と同じです。仰向けに寝て、腕を肩の高さまで上げ(外転90°)、肘を90°に曲げた状態からスタートします。手の平を床に近づけるよう倒し肩の内旋をさせます。肩の後ろが硬く伸びないと倒す角が制限されます。
biceps load Ⅱ test (バイセップ・ロード・Ⅱ・テスト)
やり方(1人で行う場合 )
①体の横方向に検査したい方の腕を肩の高さか、より少し高い位置まで上げる(90~120°)。
②肘を90°に曲げ、手の平が頭を向くようにし、上腕を軸にして、手を後ろに最大限まで引く(外旋)。
③検査したい方の肘を曲げようとし(手を頭に近づけるように)、反対の手でそれに抵抗力を加える。
④③で上腕二頭筋に収縮が入り、関節に付着している腱が引っ張られる。この時、SLAP損傷があれば痛みを誘発される。
基本的には、仰向けで寝て肩甲骨を固定し、他の人に力を加えてもらった方が正確です。
1人で行う場合、腕を外旋する時、肘が後ろに引かれやすいので、肘を壁などに押しつけ固定して行うと良いです。反対の手で押すときも、体が捻じれやすいので注意しましょう。かなり難しいです。
セルフケア法
肩後面が硬い場合、「回旋腱板について」の記事でご紹介した
・スリーパーストレッチ
・クロスアームストレッチ
が有効です。
肩甲骨の位置異常がある場合は、それに対応した修正を行う必要があります。一番多い肩甲骨の位置異常は、肩が下がって、前方に傾く状態です。猫背だと起きやすいです。肩が下がると、肩甲骨の関節面も下に傾くので、腕を上げた時により早く肩関節上部に挟み込みが起きます。
胸郭を反らしたり、それを維持する筋力や能力があるか、肩甲骨を引き付けたり、維持したりする筋力があるか、上腕骨頭を関節面に安定させる筋力や能力があるか、などを評価し、改善していきます。
SLAP損傷の原因は、上腕二頭筋長頭腱に過剰負荷がかかり、付着部周辺の関節唇に亀裂損傷を引き起こすことです。そのため、上腕二頭筋に過剰な負荷がかからないように、姿勢改善のほか、運動や仕事における動作改善をする必要があります。
まとめ
これまで4回シリーズで一般的に見られる肩の痛みについて、それぞれ発生メカニズムやセルフチェック、セルフケア法をご紹介してきました。
これらは全て大まかな目安を提供するものであり、正確には医師の診断が必要であることはお間違いないようにお願いします。
肩で違和感がでるようになったら、今までお伝えした情報を元に、悪化する前に事前にケアして頂ければ幸いです。
では、今回はこの辺で。
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