失敗しためまい症例
こんにちはダフィーカイロです。
当院は比較的「めまい」の対応を得意としていて、そのことをちょっと売りにもしていた部分がありました。
しかし、この間遭遇した症例には、残念ながらお役に立つことができませんでした。
施術院のブログで「オラ、どうだ!こんなの治したぞ」っていうのは多いですが、「駄目でした…」っていうのはあまりないと思います。施術院側にとっては宣伝にならないですもんね。
しかし、いろいろ改善点が見つかった症例でしたので、あえて記していこうと思います。
今回得た教訓は、
今まで上手くいっていたからといって
これからも上手くいくとは限らない。
ということですね。。。
初診時
聞き取りで以下の内容が判明。
・30代女性。
・前日の起床時にグルグルめまいに襲われた。
・20年前に良性発作性頭位めまい(BPPV)を発症してから、たびたび同症状に襲われる。
・1週間前に風邪を引いた。
・自律神経失調、うつ、パニック障害の既往あり。
・週4日以上運動を定期的に行っている。
テスト
めまいに関する一連のテストを行います。
・眼球運動では左への追従運動が苦手。
・目を閉じてのその場足踏みで、左へ傾く。
・小脳系テスト(ロンベルク、指鼻、協調反復、踵脛擦り)は陰性。
・バレリュー(脳底動脈)テスト陰性。
・顔面神経、構音障害、意識障害、歩行障害なし。
・weber、rinne陰性~不明瞭。
・めまいは首を後ろにそらした時に数秒誘発。左後ろが最も誘発され、右後ろは不明瞭。左右への頭部回旋は問題なし。
上記の情報から推測されるのは、一番可能性が高いのが左後半器官によるBPPVであろうということです。かなり教科書に出てくるような典型的な兆候を示しているように見えました。
この時点では誘発されるめまいはほんの数秒でしたので、発症より時間が経ち、症状が落ち着いているようにも見えます。
そこで、良性発作性めまいに特異的なテスト、dix-hallpikeをおこなってみました。これはガッツリと上体を後ろに倒し、さらに頭を後ろに反らすテストです。
右後ろに倒しても誘発されず、左後ろに倒すと明確に眼振が現れました。
典型的な眼振だと左後半器官のBPPVでは、観察者からみて時計周り+上方の律動的な動きが見れますが、なんかちょっと違うような気がする…。継続時間は15秒くらいで収まりました。また上体を起こし、座った状態に戻すと再び眼振が発生します。この時は眼振の程度は小さく、逆向きになるのが一般的です。今回は眼振の幅が小さくて逆転現象が起こっているのかは観察できませんんでした。
BPPVの場合、めまいが起こる頭位を繰り返すと、めまいの程度や持続時間が減弱する現象が観察されます。そこでもう一回、確認のために同様の検査をしました。しかしめまいの継続時間等の変化は無く、同じでした。
頭位性めまいと眼振の関係
眼振とは眼球が律動的・反復的に動くことで、正式には眼球震盪といいます。眼球が動くので景色が回って見えます。
頭位による眼振にはそれぞれの病気によって特徴があります。例えば左の平衡感覚システム障害の場合、下記のような兆候を示します。眼振の動きはすべて観察者から見た方向です。
障害名 | 眼振のでかた |
良性発作性頭位めまい | 後半器官;左後ろに頭を倒すと誘発。眼球は時計回り+上方。起こすと逆転。
外半器官;結石症は顔を左にすると左向き眼振。右に向けると逆転。クプラ結石症は逆。 |
前庭神経炎 | どの方向を向いても右方向の眼振。 |
メニエール氏病 | 急性期;左方向の眼振。慢性期;右方向の眼振。 |
小脳中部出血 | 外半器官クプラ結石症や前庭神経炎と同じ。 |
今回のケースでは、まず頭位によって誘発されるめまいは15秒程度で治まるので、小脳出血ではないようです。小脳の場合、その頭の位置にすると1分以上続き、数十秒では治まりません。
メニエールの場合、めまい発作の酷いのが2~3日程度続きます。前庭神経炎はそれより長く2週間以上は続きます。今回は発症した前日よりだいぶ治まっているようで、症状の軽減スピードが速く、これも違うようです。
さらにめまいを誘発する頭の位置が左後ろと特異的だった、そして水平方向の眼振でなかった、などの情報を加味して消去法で考えていくと、BPPVが妥当ではないかと推測されたのでした。
BPPVに対する改善エクササイズ
BPPVに対して特異的な訓練があります。目的としては半規管の中を漂っている余計な耳石があるので、それをクプラ(頭の位置を察知する神経部分)のあるところから排出させるため、頭の位置を操作することです。代表的なのは3つあります。
①エプリー法
②セモン法
③ブロンドダロフ法
①のエブリー法が一番、それぞれの三半規管の形状に合わせて頭の位置を変えていくので、障害に対し最も特異的といえます。従って後半器官と外側半規管とのやり方が違います。ただその分動きも複雑で、姿勢もきついです。
②セモン法は後半器官のBPPVに対する運動療法では、エプリー法に比べもっと動きが大雑把ですが、その分動きが簡素化されておりやりやすいです。後半器官に対して行います。
③ブロンドダロフ法は、一番簡単で、リスクが少ないと言われています。また、後半器官、外側半規管(水平半規管)に対しひとつのやり方で両方に効くので汎用性があります。イメージとしては、振り回していればその内浮遊耳石がどっかいくだろう、という感じで上体を左右にギッコンバッタンと倒します。簡単ですがその分、厳密さはそがれます。
参考資料;ブロンドダロフ法
当院の考え方
先ほどのBPPVに対する訓練の当院の捕らえ方としては、リスクの低い順では③、②、①となり、成功率が高い・効果的と感じられる順は先ほどと逆で①、②、③というイメージです。大雑把な動きほどリスクは低い分、効果も弱く、動きがシビアなほどリスクが高くなる分、効果的と感じられます。
「めまい」のクライアント様は「めまい」を解消することを一番の目的として当院を訪れます。後半器官の障害の可能性が高ければ、先ず後半器官のためのエプリー法を行うのが一番改善する可能性が高いといえます。
通院に関して数回必ず続けてくると確約できていれば、先ずはローリスクなブロンドダロフ法を試してみて、それでダメなら次にセモン法、次にエプリー法を行ってみるというように順次手間をかけて試していくことができます。しかしほとんどの人は一回やって効果がない・薄い場合、ここはダメ施術院と決めて次はこなくなります。即効性を求めるからです。したがって、クライアント様が求める即効性を実現するために、第一選択としてはエプリー法を採用することが多くなります。
さらに当院においては、発症してから比較的早期でもエプリー法で改善することが多かった経験があります。
施術
上記の考えに基づき、実際にエプリー法を行いました。一回目は、頭の各ポジションに於いてそれぞれ目眩が起きるので30秒ほど静止し、目眩が治まってから次のポジションに移行し、最後起き上がってからは気持ち悪くなるので、2分ほど休んでもらいました。
1回で治まらない場合、標準としては2~3回同じ操作を繰り返すことになります。複数回繰り返す意味は、半規管内に漂っている耳石は複数存在する可能性があること、また繰り返すことにより小脳の補正作用が働き、平衡感覚を調整してくれる効果を期待するためです。
そこで2回目のエプリー法を施行しようと、クライアント様の頭部を左後ろに倒したのですが、めまいが強く起きたため中止しました。その後、めまいは治まりましたが吐き気が続き、結局吐き気が治まるまで1時間以上費やしてしまいました。
考察
今までエプリー法操作中、気分が悪くなったとしても経験的には暫く休むと回復する人がほとんどでした。しかし、今回の症例では許容オーバーとなり、耐えれる状態ではなくなってしまい、それが持続してしまいました。
この方はもともと自律神経失調症、うつ、パニック障害の既往があることから、神経的にも過敏であったと推測できます。そのため吐き気に過剰に反応してしまったようです。吐き気は、直接の前庭自律神経反射による嘔吐中枢刺激によるものの他に、心理的なものでも引き起こされます。従って自律神経が不安定な方は最初に引き起こされた吐き気がストレスとなり、さらに吐き気を増幅させたと推測されます。
最初の検査や聞き取りの状況では、反応の強さがどこまで強く出るか推し量ることは難しく、またどこまでの刺激に耐えられるかも測ることは難しかったケースでした。
対策
今回の症例を機にBPPVに対する対応を修正することにしました。
耳石操作法の採用順について
耳石排出を目的とした訓練法として、当院では今までは効果の優先順位から、エプリー法→セモン法→ブロンドダロフ法という順番で採用してきました。しかし、今後は安全度を優先してブロンドダロフ法→セモン法→エプリー法の順で採用することにしました。
体位変換のタイミングについて
エプリー法を行う際、1ポジションに3~4分くらい待つってから次のポジションに移動させる、という方法を推奨する教科書もあります。後半器官の場合、最初のポジションが首を45°に回旋させながら後ろにのけぞらせるという姿勢になります。この姿勢で3~4分維持してもらうのは健常者でも首がシンドクなってくるので、あまり現実的で無いと考えていました。
通常では30秒ほどで回転性めまいは治まり、それは浮遊耳石がポジションを移動し終わり、半器官内のリンパの攪拌が済んだことを意味していると説明されています。したがって、今までは30秒ほど待ってめまいが治まったら次のポジションに動いてもらうようにしていました。
しかし今後は慎重を期し、1ポジションの継続時間をもっと長めに取ることにしました。
過敏な反応を起こしそうな可能性のある人へ
BPPVは慌てなくてもその内治ります。耳石も代謝によって次々分解・生成されていくからです。ケプラ結石型など一部のBPPVは治りが悪いかったり、また人によっては結石症型でもいつまでもめまい感が残る人がいます。そのような場合はカイロプラクティックの施術が回復を早めます。従ってめまいが発症してから慌ててすぐに施術をしなくても遅くはないのです。
過敏な人や、吐き気を強く感じやすそうだと思う人は、事前に制吐剤を処方してもらった方が良いでしょう。個人的な意見ですが、めまいに対する辛さは「景色が揺らいで見えてふら付く」ことより「吐き気、気持ち悪さ」の方が重要だと思われます。それが抑えられるだけで大分気持ち的に楽になるでしょう。
まとめ
今回、上手くいかなかっためまい症例に関してのご報告と、その改善点を記しました。
修正すべきところは修正し、さらに皆様のヘルスケアに貢献できるように頑張りたいと思います。
次回は今回の記事に関連して、めまいの辛さの要素である「吐き気」についてもう少し掘り下げていこうと思います。
では、今回はこの辺で。